Chapter 922
高橋彩花の窮地(続き)
高橋彩花の目に鋭い光が宿り、大庭理香を冷たく見据えた。その視線に、大庭理香は思わず身震いした。
心の準備はしていたものの、実際にその報告を聞くと、やはり腹立たしさがこみ上げてくる。怒りが胸に渦巻き、爆発しそうだった。
横山悠人に金を騙し取られて逃げられたのも腹立たしいが、何より問題なのは高橋美咲のことだった。
新しいデザインがなければ、高橋美咲に対抗することもできず、完全に敗北するしかない。今回は負けだ、それも完敗だった。
大庭理香は自分が調べたことを、ありのまま高橋彩花に伝えた。「横山悠人の家に行ったら、彼の彼女しかいなくて、泣きじゃくりながら「横山悠人に騙された」って言ってました。実はあのデザイン、横山悠人が作ったものじゃなくて、彼女が元カレから盗んできたものだったそうです」
その光景を思い出すと、大庭理香はあまりの展開に呆れてしまった。
高橋彩花はそれを聞いて、怒りで拳を握りしめた。
どうりで横山悠人が逃げたわけだ。そもそもデザインの才能なんてなく、バレるのを恐れていたのだろう。
結局、金を騙し取った後、横山悠人は逃げた。もう見つけることもできず、この損失は泣き寝入りするしかない。
たとえ見つけ出せたとしても、その時にはもう手遅れだ。
高橋彩花は顔を歪め、机の上のものをすべて床に叩き落とした。歯を食いしばりながら「一体どうなってるの?あなたはどうやって仕事してるの?なんでちゃんと確認しなかったの?」と怒鳴った。
大庭理香は深く傷ついた気持ちになった。新しいデザイナーを採用した時、デザイン画は高橋彩花にも見せていた。
その時、高橋彩花はデザインが素晴らしいと判断し、何も聞かずに即採用を決めた。自分はただのアシスタントで、何も言えなかったのに、今になって全ての責任を押し付けられている。
高橋彩花は大きく息を吸い、怒りを無理やり抑え込んだ。「それなら、元のデザイナーを探してきて。三倍の給料を出してもいい。今回だけは高橋美咲を抑えてくれればそれでいい」と言った。
それを聞いて、大庭理香は困った顔をした。
「高橋部長、もう調べました。その元のデザイナーは安城朝陽という人です。以前、彼は自分の作品を持ってうちの会社に来たことがありましたが、その時、高橋部長が追い返したんです」
高橋彩花は、もう限界だと感じた。その人物のことは全く覚えていなかった。
必死に思い出そうとし、うっすらとそんなことがあった気もした。当時はそのデザイナーを詐欺師だと思い、警備を強化するよう指示まで出していた。まさか、あんなに優秀なデザイナーだったとは。
「じゃあ今どこにいるの?すぐに連れ戻してきて!」
大庭理香はどうしようもなくため息をつき、苦々しく言った。「もう無理です。そのデザイナー、今は高橋美咲のメゾン・ヴェルヌで働いています。今回メゾン・ヴェルヌが発表した新作デザインは、全部その人のものです」
この件を調べているうちに、大庭理香は高橋彩花がどれほど大きなチャンスを逃したのか、痛感していた。
高橋彩花はそれを聞いた瞬間、目の前が真っ暗になり、今にも倒れそうになった。
呼吸が荒くなり、手をぎゅっと握りしめる。自分があんな優秀なデザイナーを高橋美咲の側に追いやってしまったとは、夢にも思わなかった。もしあの才能が自分のものだったら、今でも高橋美咲を抑え込めていたはず。どうしてこんな窮地に陥ることになったのか。
突然、高橋彩花はお腹に痛みを感じ、慌てて下腹部を押さえた。
自分の赤ちゃん……
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