Chapter 908
九条家の大旦那様から始める
九条蓮の言葉を聞いて、高橋美咲の胸にはさまざまな思いが込み上げてきた。
まさにその通りだった。隙のない卵にハエは止まらない。世の中の男たちはよく「他の女に誘惑された」と言い訳するが、そもそも自分が隙を見せなければ、相手が勘違いする余地もないはずだ。本当に誠実な男は、九条蓮のようであるべきなのだ。
高橋美咲の心には、静かだが確かな感情が広がっていく。本当にこの人を選んでよかった、と実感した。
九条蓮は高橋美咲を外へと導いた。「行こう。今日は外で食事しよう。俺のおごりだ。好きなものを頼んでいいよ。」
……
一方その頃、柏木真理子は九条蓮の会社を後にしても、どうしても納得がいかなかった。
今日は自分の気持ちをはっきり伝えれば、家柄や立場を考えて九条蓮も自分の条件を受け入れるだろうと思っていた。だが、何も言い出す前に、九条蓮は冷たく拒絶してきたのだ。
結局、恥をかいてオフィスを後にする羽目になった。こんな屈辱、到底受け入れられない。
だが九条蓮の態度はあまりにも冷淡だ。このまましつこく迫れば、自分の温かい顔を冷たい尻に押し付けるようなもの。柏木家の娘として、それは絶対に許せない。
柏木真理子は考えた末、別の切り口から攻めることにした。ふと、九条家の大旦那様のことを思い出す。
今は九条家の大旦那様が九条蓮と同居していて、九条蓮はとても孝行者だと聞いている。ならば、九条家の大旦那様に気に入られれば、自然と九条蓮にも近づけるのではないか。
柏木真理子の口元にゆっくりと笑みが浮かぶ。九条蓮に火をつけられた闘志は、そう簡単には消えそうにない。
そう思い立つとすぐに、彼女はショッピングモールへ向かった。数十万円分の健康食品を買い、九条家の大旦那様の現在の住所を調べて、運転手にそのまま送り届けさせた。
その頃、九条家の大旦那様と大奥様は家でテレビを見ていた。
以前の一件以来、九条家の大旦那様はもう頑固になることもなくなり、今は何事にも口を出さず、ほとんどの時間を大奥様とテレビを見て過ごしている。穏やかな老後を楽しんでいると言えるだろう。もしひ孫でもできれば、これ以上の幸せはない。
ピンポーン、とチャイムが鳴った。
九条家の大旦那様は大奥様を見て、「もう高橋美咲が帰ってきたのか?鍵を持っていかなかったのか?」と声をかけた。
「たぶんそうね。最近あの子も忙しいし、うっかり忘れたのかも。」そう言いながら大奥様は立ち上がり、玄関へ向かった。「美咲、また鍵を……」とドアを開けながら声をかける。
だが、言い終わる前に動きが止まった。
玄関の外に立っていたのは、ピンクのワンピースを着た女性。上品な雰囲気で、育ちの良さが一目で分かる。大奥様は不思議そうに「あなたは……?」と尋ねた。
柏木真理子は微笑みを浮かべ、柔らかい声で言った。「九条家の大奥様ですよね?私は柏木真理子と申します。父は柏木グループの社長です。父に頼まれて、九条家の大旦那様の様子を見に伺いました。今、お時間よろしいでしょうか?」
大奥様がここで追い返すはずもない。どんな事情があっても、とりあえずお茶くらいは出すのが礼儀だ。
すぐにドアを大きく開けて「どうぞ、今ちょうど家におります。お入りなさい」と招き入れた。
そう言うと、大奥様は家の中に向かって「おじいさん、お客様ですよ」と声をかけた。
あの一件以来、九条家の大旦那様はもう実業界から身を引いており、訪ねてくる人もほとんどいない。今のように落ちぶれた状況では、なおさらだ。だから突然誰かが来たと聞いて、驚いた表情を見せた。
ほどなくして、健康食品を抱えた柏木真理子が入ってくるのが見えた。
九条家の大旦那様はさらに驚いた。知り合いは皆それなりの年齢で、若くても息子と同じくらいの世代。柏木真理子のような若い女性には全く心当たりがない。
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