Chapter 907
女が九条社長を訪ねてきた(続き)
柏木さんは最初、社員か誰かが九条蓮を訪ねてきたのだろうと思い、彼が用事を済ませて戻ってくるのを待つつもりだった。だが、まさか九条蓮が女性を連れて戻ってくるとは思わなかった。
しかも、その女性を抱き寄せていて、二人の距離はとても親密だった。
もしかして……高橋美咲?
柏木さんは以前海外に住んでいて、最近大阪に戻ってきたばかり。しかも高橋美咲はしばらく姿を消していたため、柏木さんは彼女のことをほとんど知らなかった。もし何か印象があったとしても、とても曖昧なものだった。
今こうして高橋美咲を目の当たりにし、柏木さんの視線は鋭くなり、心の中で密かに自分と高橋美咲を比べていた。
今日の高橋美咲は体に合ったワンピースを着て、髪はなめらかに背中に流れている。静かで上品な雰囲気が漂っていた。服装は普通で、特に高価なものを身につけているわけではないのに、目を引くほど美しかった。
柏木さんは自分の姿と比べてみた。全身ブランドで固めているのに、立ち居振る舞いは高橋美咲に遠く及ばない。
さっき加藤東吾に「あなたは美人だから心配いらない」と言われたが、今となっては高橋美咲には敵わないと感じていた。
だが、家柄を思い出すと、少しだけ誇らしい気持ちも湧いてきた。
高橋美咲はこういう女性を何人も見てきた。柏木さんの敵意ある視線を見た瞬間、何が起きているのかすぐに察した。彼女は口元に微笑みを浮かべて九条蓮に「お客様がいらっしゃるのね?じゃあ私は下に戻るわ」と言った。
そう言って高橋美咲は踵を返そうとしたが、思いがけず手を掴まれた。
「いいえ。柏木さんはもうすぐお帰りになるから」
柏木さんの顔色が曇った。自分は帰るなんて一言も言っていないのに!
九条蓮は冷静に柏木さんに「今日はお父様の代理で資料をお持ちいただき、ありがとうございます。次回は私から直接柏木社長にご挨拶に伺います」と言った。
そう言うと、高橋美咲を引き寄せて小声で「今日は何が食べたい?真壁に買ってきてもらう?それとも外で食べる?」と尋ねた。
高橋美咲には、九条蓮が柏木さんを完全に無視しているのがはっきり分かった。この男は女性を断る時、いつも冷たくて距離を取る。他の男のように曖昧な態度で何人もキープすることはない。
九条蓮は今、事業を立ち上げたばかり。もし強力な後ろ盾があれば、もっと楽に進められるかもしれない。
だが彼は、あえて一番険しい道を選んだのだ。
高橋美咲は、自分が心配してわざわざ駆け上がってきたことが少し可笑しくなった。九条蓮は想像以上に頼もしい。自分は何を心配していたのだろう。
九条蓮は柏木さんに少し申し訳なさそうに「柏木さん、これから妻と食事に行くので、おもてなしできません。もしよろしければ、私のアシスタントがご一緒しますが、いかがですか?」と声をかけた。
柏木真理子の表情は沈み、内心かなり不満だった。
自分は九条蓮に会いに来たのに、なぜアシスタントと食事しなければならないのか。
「結構です。お忙しいようなので、私はこれで失礼します」柏木真理子はそう言い、バッグを手に取り、ヒールを鳴らして憤然と立ち去った。
柏木真理子が去った後、高橋美咲はようやく九条蓮を見て、困ったように「彼女、怒って帰っちゃったみたい」と言った。
九条蓮は高橋美咲の腰に手を回し「どうした?まさか俺に彼女と何かあってほしいのか?」と聞いた。
そんなことあるはずがない。高橋美咲は慌てて首を横に振り「違う!」と答えた。
九条蓮は口元に微笑みを浮かべ「心が揺れる男だけが、好意を持たれている女性に期待を持たせるものだ」と言った。
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