Chapter 90
九条悠真は高橋家の婿(続き)
皆の羨望の声を聞き、九条沙耶香の目には得意げな色が一瞬浮かぶ。満面の笑みで「まあ、私たちは本当は控えめにしていたかったんですけど、皆さんもうご存知だったんですね」と答えた。
「うそでしょ?やっぱりあの高橋家なの?」と皆が驚きの声を上げる。
「まあ、悠真さんは本当に運を掴みましたね。これからはお義父様の後ろ盾もあるし、きっと出世間違いなしですよ。うちの息子なんて、結局兄の面倒を見てる貧乏な子と付き合っちゃって…」
「九条夫人、今後ともよろしくお願いしますね。」
九条沙耶香はしばらくマダムたちと談笑を続けた後、トイレに行くと言い訳してその場を離れた。
すでにかなりのゲストが到着しているのに、高橋家はまだ姿を見せていない。
さすがに落ち着かなくなり、すぐにでも悠真にどうなっているのか、義理の家族はいつ来るのかを確認しに行きたくてたまらなかった。
九条沙耶香は九条悠真をそっと呼び寄せて、小声で尋ねた。「悠真、今日高橋家を招待したって言ってたけど、まだ来てないの?」
彼らの義理の親、大阪の高橋家こそが本当に重要な存在だった。高橋家が来るかどうかで、今後九条悠真が九条家の中で頭角を現せるかが決まるのだ。
それを聞いて、九条悠真は眉をひそめて言った。「お母さん、大事な人ほど遅れて登場するものだよ。他のゲストはもうみんな来てるし、もし高橋家が後から来たら、すごい話題になるよ。もう少し待ってみよう。」
九条沙耶香はそれを聞いて一理あると思ったが、やはりどこか落ち着かない気持ちが残った。
彼女は桜井奈緒の姿を探して辺りを見回した。「奈緒は?どこに行ったの?」
九条悠真は少し曖昧に答えた。「たぶん、奥でメイク直ししてるんじゃないかな。」
「いや、やっぱり私が急かしに行ってくるわ。何かあったら困るし。あなたはここで他のお客様の対応をお願い。私は奥で奈緒と話してくるから。」
そう言い残して、九条沙耶香は足早にその場を離れた。
…
邸宅のパウダールーム。
桜井奈緒はちょうどメイク直しを終えたところだった。鏡の中の自分を見つめ、満足げに微笑む。
今日は自分が一番美しい花嫁だ。
その時、ドアが開き、九条沙耶香が入ってきた。「奈緒、こっちはもう準備できてる?」
桜井奈緒はすぐに我に返り、にこやかに答えた。「もうすぐ終わります。」
「悠真と私、外でずっと待ってたんだけど、あなたのご家族がまだ誰も来てないの。いつ来るのか電話して聞いてみたら?」
桜井奈緒の表情が一瞬固まったが、すぐに笑顔を作り直して言った。「お義母様、父は必ず来ると約束してくれましたから、きっと大丈夫です。ご心配なく。」
九条沙耶香はそれを聞いて、少しだけ不安が和らいだ。
彼女は微笑んで言った。「それならいいけど、あまりここに長居しないでね。外ではみんなあなたを待ってるし、挨拶もしないといけないから。」
「はい、分かってます。」
九条沙耶香がドアを閉めて出ていくと、桜井奈緒の目に一瞬だけ陰りが浮かんだ。
高橋家が来ていない?それこそが彼女の望み通りだった。
本来なら高橋家の件をごまかす方法を考えなければならなかった。いざとなれば、母が高橋家で家政婦をしていた縁で高橋正人に頼み込むつもりだったが、来ていないなら言い訳を考える必要もない。
おそらく、前回九条悠真が高橋正人に会った時の「行く」という返事も、ただの社交辞令だったのだろう。
高橋家の問題は片付いたが、まだあの高橋美咲が残っている。
あの動画のことが…
そう思いながら、桜井奈緒はスマートフォンを取り出し、柏木健人の番号を押した。「柏木健人、動画はいつ送ってくれるの?」
柏木健人は鼻で笑って言った。「まずは約束の金を振り込めよ。入金確認できたら、婚約祝いに動画を送ってやる。」
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