Chapter 892
眠い時に枕を差し出されるように
最初は信じていなかった森川茉莉だったが、男がかなりの数のデザイン画を持っていて、それが本格的に見えたので、
少し迷った末に「わかった。じゃあ、まず写真を撮らせて。今すぐ確認してくるから」と言った。
森川茉莉はスマホを取り出して男の写真を撮り、高橋美咲に「会いたいと言っている人がいるけど、会う?」とメッセージを送った。
…
その頃、メゾン・ヴェルヌのオフィス内。
高橋美咲は眉間に深いしわを寄せていた。最近、メゾン・ヴェルヌが壁にぶつかっていると感じていた。
相沢紫苑や、以前九条蓮が見つけてくれた3人のデザイナーと共にデザインチームを作り上げてきた。彼らは確かに素晴らしいデザインを生み出せるが、3人だけではやはり限界がある。最近は自分自身も全くインスピレーションが湧かず、新しいデザインを長い間出せていなかった。
このままでは、いずれ力尽きて頼れるものがなくなってしまう。
ちょうどその時、相沢紫苑がデザイン案を提出しにやってきた。高橋美咲の悩んだ表情を見て、不思議そうに「社長、最近うちの業績は順調なのに、どうしてそんなに心配そうなんですか?」と尋ねた。
高橋美咲はため息をつき、「業績は悪くないけど、最近のデザインには満足していないの。今のままだと、以前のピークを維持できなくなるかもしれない。私自身も最近は全然アイデアが浮かばないし。この壁を突破しないと、高橋ジュエリーに追いつかれてしまう」と答えた。
メゾン・ヴェルヌの投資家たちも短期間で結果を求めているため、常に新作を出し続けて勢いを保たなければならない。しかし、良いデザインはそう簡単に生まれるものではない。やっつけ仕事のデザインを出し続けても効果はなく、むしろブランドの評判を落としかねない。
相沢紫苑は少し考えてから「それなら簡単じゃないですか?私も最近ちょっと疲れてきたし、デザイナーを何人か増やしたらどうです?」と提案した。
高橋美咲もその意見に納得した。会社も安定してきたし、そろそろ拡大を考える時期だと感じていた。
ちょうどその時、スマホが鳴った。
高橋美咲が画面を見ると、森川茉莉からのメッセージだった。最近自分がデザインしたジュエリーに問題があると言うホームレスの男性に出会い、その人が会いたがっているという内容だった。
そして、森川茉莉が送ってきた写真も添付されていた。
高橋美咲はその写真のデザインを見て、最初は特に気に留めなかったが、じっくり見直すと目を見張るような驚きが浮かんだ。
スマホを相沢紫苑に渡し、「相沢紫苑、このデザイン見て。どう思う?」と声をかけた。
相沢紫苑は不思議そうにスマホを受け取り、デザインをよく見ると、思わず何度も感嘆の声を上げた。「すごい…このデザイン、個性が強すぎる。このデザイナー、発想が大胆すぎる。私だったら、ここまで攻めたデザインにはしないと思う。もっと無難な方向にしちゃうかも。」
高橋美咲は軽くうなずいた。これまでのデザインが無難すぎて、一目で驚かせるようなインパクトが足りなかったのだと感じていた。
だが、目の前のデザインはとても大胆で、見た瞬間に圧倒される。自分でも思わず称賛したくなるほどだった。
ちょうど今、相沢紫苑とデザイナーを増やす話をしていたところに、まさにその人材が自ら現れた。
まるで眠い時に枕を差し出されたようなタイミングだ。
迷うことなく、すぐに森川茉莉に「すぐにその人をオフィスに連れてきて」と返信した。
…
ほどなくして、男は森川茉莉に連れられてメゾン・ヴェルヌに戻ってきた。
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