Chapter 891
中途半端なデザイナー(続き)
そう言い放つと、大庭理香に「大庭理香、最近は警備をもっと厳重にして。こういう人間を絶対に入れないで」と指示した。
「はい、高橋マネージャー。気をつけます。」
高橋彩花は一切迷いなくその場を立ち去り、地面に押さえつけられた男に一瞥もくれなかった。
ほどなくして男は高橋ジュエリーの警備員たちによって外へ放り出された。
警備員たちは地面に倒れた男を冷たく見下ろし、「また社内に忍び込んだら、今度はただじゃおかないぞ。さっさと失せろ」と吐き捨てた。
そう言い残して二人は立ち去った。
男はみじめに地面から這い上がり、顔には苦しみと痛みが浮かび、目には絶望の色がにじみ、全身から力が抜けていた。
「どうすればいいんだ……俺は、どうすれば……」と低くつぶやいた。
男はあてもなく歩き出した。その時、近くのテレビでジュエリーのCMが流れているのが目に入った。CMの最後には「メゾン・ヴェルヌ」の文字が映し出されていた。
男は画面の前で立ち止まり、じっと見つめていると、CMが再び流れ始めた。
ジュエリーが映し出されると、男は軽蔑するような笑みを浮かべてつぶやいた。「このデザイン、悪くはないけど完璧じゃない。縁取りを外して透かし細工にすれば、この宝石の美しさがもっと引き立つのに。今のままじゃもったいない……」
独り言のつもりだったが、偶然その場に森川茉莉が通りかかった。
彼女は昼食を買いに出てきて、自社のCMに惹かれて足を止めていた。まさかこんな独り言を耳にするとは思っていなかった。
森川茉莉はこのジュエリーを覚えていた。それは高橋美咲が自らデザインし、かなり評判になった作品だった。
それなのに、この男はそんなふうに評価している。
森川茉莉は男をじっと観察した。ぱっと見は確かにホームレスのようだが、よく見ると服は色あせて古いものの、本人は意外と清潔だった。
今や森川茉莉にとって高橋美咲は憧れの存在。そんな彼女の悪口を許せるはずがない。
森川茉莉はすぐに男に向かって「何言ってるのよ!うちの社長が自分でデザインしたんだから。今一番売れてる作品よ!」と反論した。
森川茉莉の言葉に、男は目を上げて困惑したように尋ねた。「君の社長?」
「そうよ!」森川茉莉は腰に手を当ててふんっと言い放った。「あんたみたいな素人が、ジュエリーデザインを語るなんて笑わせないで!メゾン・ヴェルヌのデザインにケチつけるなんて、ありえないから!」
そう言って森川茉莉は弁当箱を持ち、立ち去ろうとした。
だが、男は何かを思い出したように、突然一歩踏み出して彼女の腕をつかんだ。
森川茉莉は、自分がきつい言葉を投げたせいで、相手が恥ずかしさと怒りで誰かに殴りかかろうとしているのだと思った。すぐに「ちょっと、何する気?警告しておくけど、変なことしたら許さないからね。私、テコンドー黒帯なんだから!下手なことしたら、叩きのめすよ!」と叫んだ。
男は森川茉莉を見て、真剣な表情で「あなたの上司に会わせてもらえませんか?どうしても伝えたい大事なことがあるんです」と言った。
「はあ?大丈夫?」と森川茉莉は呆れたように目を回し、「私たち、全くの他人でしょ?あなたが会いたいって言うだけで、なんでうちの上司に会わせなきゃいけないの?」と返した。
男はすぐにスマホを取り出し、何枚かの写真を表示して森川茉莉の前に差し出した。「僕はジュエリーデザイナーです。これ、全部僕のデザインです。デザインのことで、あなたの上司と話したいんです。」
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