Chapter 888
恥知らずと脳天気(続き)
二人はこれまで数々の困難を乗り越えてきた。少なくともそれくらいの信頼は高橋美咲に持っている。
高橋美咲は困ったように言った。「うん。悠真が彩花を連れてきたの。彩花は今日のランウェイショーでも大騒ぎして、もう少しでショーが中止になるところだった。その後追い出されたけど、二人とも本当にどうかしてるわ。」
そこで高橋美咲は、九条蓮があまりにも落ち着いていることにふと気づき、不思議そうに尋ねた。「ねえ、九条蓮、全然動じてないけど?誰かに誘惑されて私が取られちゃうかもって心配じゃないの?」
九条蓮はそれを聞いて笑った。「全然。」
高橋美咲が何か言う前に、彼は続けた。「最悪、君がどこかに行っちゃっても、俺も一緒に逃げるから。」
高橋美咲は完全に呆気に取られた。
それじゃ、もし誰かが自分を奪いに来たら、九条蓮までセットで面倒を見ることになる。まるでイケメンのおまけ付きみたいなものだ。
想像しただけで高橋美咲は可笑しくなった。でも、今の九条蓮がこんな風になるなんて、全く予想していなかった。
あのクールさはどこへ行ったの?
以前はこんな人じゃなかった。明らかに冷たくて禁欲的だったのに。
高橋美咲はぷいっとして言った。「九条蓮、あなた変わったわ。」
「ん?」九条蓮は片手でハンドルを握りながら、横目で高橋美咲を見て、彼女の指摘に本気で不思議そうな顔をした。
「前はこんなんじゃなかったのに。」
もし誰かが九条蓮に小切手を差し出しても、彼は見向きもしなかっただろうし、他のことだって同じだったはず。
だから、一緒に逃げるなんて話は彼の口から出るはずがなかった。
九条蓮は口元にうっすらと笑みを浮かべ、ゆっくりと言った。「人は変わるものさ。それに……夫が妻に従うのが悪いことか?」
高橋美咲は笑っていいのか困ってしまった。本当にそんな意味だったっけ?
九条蓮は「今夜は何が食べたい?」と尋ねた。
高橋美咲は少し考えた。九条家の大旦那様と大奥様がまだ家にいるのに、二人だけで外食するのは気が引ける。今は九条家の大旦那様との関係も以前とは違うし、彼にも気を配るようになっていた。
九条家の大旦那様が以前、自分の味方になってくれてから、高橋美咲の彼への印象はさらに良くなっていた。
少し考えてから、「今日は食材を買って帰って、自分たちでご飯を作ろう。最近ずっと仕事で忙しくて、全然料理してなかったし」と言った。
「うん、いいよ。」
九条蓮はハンドルを切り、市場の方へ車を走らせた。
……
ランウェイショーの後、高橋美咲のメゾン・ヴェルヌはかなり知名度が上がった。以前なら、名前を出しても十人中九人は知らなかったが、今ではメゾン・ヴェルヌ・ジュエリーと言えば、大抵の人が何となくでも聞いたことがあるようになった。
高橋美咲は、これは良いスタートだと感じていた。
ショーの後、彼女は三日間休みを取り、家で九条家の大旦那様と大奥様とゆっくり過ごした。そのせいで、二人からは「仕事がうまくいっていないから家にいるのでは」と思われてしまったほどだった。
結局、仕方なく高橋美咲は再び会社に戻り、自分の仕事に取りかかることにした。
その朝早く、高橋美咲は会社に到着した。森川茉莉は高橋美咲の姿を見るなり、すぐに駆け寄ってきて「社長、やっといらっしゃいましたね」と声をかけた。
ここ数日、高橋美咲はオフィスに顔を出していなかった。その間、森川茉莉がすべての資料を準備し、それを高橋美咲に渡し、高橋美咲が指示を出すという流れだった。特に問題はなかったものの、やはり森川茉莉としては高橋美咲がそばにいてくれる方が安心だった。
高橋美咲は森川茉莉が手渡した資料に目を通した。
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