Chapter 881
彼女を自分のそばに取り戻すために
高橋正人は苛立たしげに椅子に沈み込んだ。
数日前のカクテルパーティーで、彼と妻の高橋花は娘を必死で探し回り、何かあったのではと心配したが、最終的にホテルの宿泊記録でようやく高橋彩花を見つけた。
その時、高橋正人は人生でこれ以上ないほどの恥をかいた気分だったが、高橋花はむしろ大喜びで、高橋彩花を抱きしめ「よくやった」と言った。
冷静になってみれば、九条家の当主が変わったとはいえ、九条ホールディングスは高橋家が到底及ばない存在。もし彩花が本当に九条家の若様と一緒になれば、高橋家にとっては得しかない。
彼の口調も一気に和らいだ。
「でも、だからといって怠けていいわけじゃない。社内の人間がこれを見たら、誰が君の仕事に協力すると思う?」
「この店を立て直す有効な策が出せないなら、早めに損切りしろ。」
高橋彩花は目を泳がせ、店を閉める気などさらさらなかった。
今ここで閉店したら、高橋美咲に「負けを認めた」と言うようなものじゃないか。
美咲には九条蓮がついているけど、自分にも九条悠真がいる。
まさか、あの二人に勝てないなんてことがある?
「お父さん、私は店を閉めない。」
「もう少しだけ時間をちょうだい。絶対にこの店を立て直して、高橋美咲のメゾン・ヴェルヌよりも繁盛させてみせる!」
そう言い切って自信満々に部屋を出ていく高橋彩花。高橋正人はただ首を振ってため息をつくしかなかった。
せめて九条家の若様が助けてくれればいいが…。
…
一方、高橋美咲と九条蓮のビジネスは絶好調だった。レーン女史の出資でメゾン・ヴェルヌはすぐに2号店、3号店と展開し、彼女の助力で高級ジュエリー業界にも人脈を築いていった。
今や複数のハイブランドのランウェイショーとコラボの話も進み、メゾン・ヴェルヌのジュエリーがモデルたちに着用される予定だった。
九条悠真が手掛けていたプロジェクトもいくつか九条蓮に奪われ、カクテルパーティー以降、彼の状況はますます悪化。毎日多忙を極め、身動きが取れないほどだった。
そんな中でも高橋彩花はたびたび彼のもとを訪れ、プライベートなデートやファッションショーへの同伴を強引に求めてきた。
あるハイブランドのショー会場。
「これはただのショーじゃないの。うちの店のジュエリーがこのランウェイとコラボできれば、絶対に売上が回復するはず。」
「九条ホールディングスもハイブランドをいくつも持ってるでしょ?こういうランウェイともっとコラボすれば、業績もかなり戻ると思うの。」
高橋彩花の言葉に、九条悠真も思わずハッとした。彼女の狙いが自分のためでないことは分かっていたが。
「君の店のジュエリーじゃ、このレベルのランウェイには到底出せないだろう。」
高橋彩花の店で扱うジュエリーは一応ブランド品だが、ハイブランドのランウェイどころか、普通のショーですら採用されるか怪しいレベル。
せいぜい二流ブランド扱いだ。
「わざわざ俺を連れてきて、九条ホールディングスの力で自分のジュエリーをランウェイにねじ込もうって魂胆だろ?」
図星を突かれ、高橋彩花の顔に一瞬バツの悪さがよぎる。
それでも無理やり言い訳をした。「違うの悠真、そ、それはついでで…本当はもっと一緒にいたかっただけ。」
もし高橋彩花の提案が自分にもメリットがなければ、九条悠真はこんなにあっさり彼女をショーに連れてくることはなかっただろう。
九条ホールディングスの後継者である九条悠真が姿を現すと、ショーの運営トップたちの注目を一身に集め、責任者が遠くから笑顔で会釈しながら近づいてきた。
「これは九条様ではありませんか。本日はどういったご用件で?」
「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。どうかご容赦ください。」
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