Chapter 876
私、夢でも見てるの?
高橋美咲に少し似た高橋彩花の顔をはっきり見ると、九条悠真はふと動きを止めた。
高橋彩花になど構うつもりはなかったが、今は少し気に留める必要があった。
九条悠真は口元に笑みを浮かべ、いきなり手を伸ばして高橋彩花の腰を抱き寄せた。
彼女が何を求めて自分に声をかけてきたのか、悠真にはよく分かっていた。
高橋彩花にも交際経験はあったが、九条悠真より美しい男など、実際そう多くはいなかった。
彩花の心臓がたちまち大きく2回跳ね、頬がほんのり赤く染まった。
「九条様、ここではまだ大勢の人が見ていますよ」
九条悠真が思惑どおり食いついたことに、高橋彩花は有頂天になった。男なんて本当にどれも同じだ。
これで、自分の魅力が高橋美咲よりはるかに上だと証明されたのではないか?
「九条様、私がお酒に付き合います。機嫌を直してください」
九条悠真は眉を上げ、手にした酒を一息に飲み干した。
高橋美咲は九条蓮の前でくるりと一回転して服装を見せ、それから尋ねた。
「私が身につけているジュエリーで、本当にあの奥様方の心をつかめると思う?」
九条蓮は笑ってうなずき、手を伸ばして彼女の頬を優しくつまんだ。
「もう少し自信を持て。お前は綺麗だし、ジュエリーも綺麗だ」
綺麗だと言われて嬉しくない女などいるだろうか。それも、九条蓮ほど目の肥えた人から言われたのだ。彼が綺麗だと言うのなら、おそらく問題はない。
カクテルパーティーが正式に始まったのを見て、九条蓮は高橋美咲に腕を差し出し、腕を組むよう促した。
「行こう」
高橋美咲は深呼吸をして、九条蓮とともにメインホールへ入った。そこにいる大物実業家たちには以前も会ったことがある。ただ、当時の九条蓮はまだ九条ホールディングスの社長だった。彼らは蓮を見かけるたび、いつも笑顔で挨拶し、自分から近寄って声をかけてきた。
多くの人が九条蓮を目にしても、まるで見なかったかのように振る舞う今とは違う。
それを見て、高橋美咲は少し胸が痛んだ。彫りの深い九条蓮の横顔へ目を向ける。これほど完璧で、天に愛されたような男が、こんな扱いに耐える必要などないはずだ。
「どうした?まだ緊張しているのか?」
高橋美咲が自分をじっと見つめていることに気づき、九条蓮は顔を伏せて尋ねた。
声は優しく、その目にも励ますような色があった。
「怖がるな。何があっても俺がいるから、緊張しなくていい。うまくできなくても、俺が後ろについている。力になるよ」
高橋美咲は最初こそ少し緊張していたが、それを聞くとかえって噴き出した。
「さっき入口で私が助けなかったら、どこかのお金持ちの女性に無理やり囲われるところだったでしょ。一体どっちがどっちを助けてるの?」
九条蓮は、甘やかすような笑みを顔いっぱいに浮かべた。
「分かった、分かった。俺を助けているのはお前だ。妻が大金を稼いで俺を養い、好きな企画を何でも選ばせてくれるのを待つとしよう。これでどうだ?」
高橋美咲は鼻で笑った。「それならよし」
二人は気持ちを整えてホールへ入り、あちこちで挨拶を始めた。そこで高橋美咲は、あることに気づいた。九条蓮が挨拶に連れていく相手は、誰もが彼に非常に丁寧で、九条ホールディングスの社長だった頃とほとんど変わらなかった。
逆に蓮へ挨拶しない者たちこそ、九条蓮が以前から相手にする価値もないと見下していた連中だった。
「九条さんは本当にお幸せですね。奥様は苦しいときも、しっかり寄り添っていらっしゃる」
九条蓮の笑みはいっそう明るくなった。その言葉に心から同意しているのは明らかだった。
「本当に、運がいいのは私の方です」
「林美和さん、妻が最近ジュエリーブランドを立ち上げましてね。ご一緒できる機会があるか、ぜひ相談させてください」
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