Chapter 870
あなたにはあなたの戦場が、私には私の戦場がある
九条のお祖父様は、相変わらず口が悪かった。九条のお祖母様は、彼の袖を引っ張り、目で「もう少し控えて」と合図を送った。
本音は、苦しい時にこそ現れる。彼女は、九条家の大旦那様がすでに高橋美咲を心から受け入れていることを知っていた。でなければ、プライドを捨てて柏木真理子に新店舗のオープン初日に応援を頼むなんて、絶対にしないはずだ。
ただ、あの口調が問題なのだ。どんなに思いやりがあっても、口から出ると妙に棘があるように聞こえてしまう。
本当は九条蓮に「パートナーを信じて、高橋美咲の力を信じろ」と言いたかっただけなのに、どうしてあんな言い方になってしまうのか。
高橋美咲はまったく気にしていなかった。はっきり言えば、九条のお祖父様は子供のような性格なのだ。新店舗のオープンに尽力してくれたことには、本当に感謝している。
彼女は九条蓮の背中を軽く押した。
「お祖父様の言う通り。あなたにはあなたの戦場があるし、私にも私の戦場がある。」
「信じて。私なら大丈夫だから。」
何もかも九条蓮に頼るようでは、ジュエリー店なんて早々に畳むしかない。ハイエンド市場に食い込んで人脈を築くなんて到底無理だ。
九条蓮も彼女と同じ考えで、高橋美咲の意図をすぐに理解した。
彼は当然、彼女を信じて、その決断も尊重していた。
「わかった。それじゃ、会場で会おう。」
「うん。」
九条蓮が出ていくと、森川茉莉も呼んだ車が到着したのを見て、高橋美咲に声をかけた。
「社長、うちの車も来ましたよ。行きましょう。」
高橋美咲はうなずき、出発する前にソファの方へと足を向けた。
「お祖父様、ありがとう。」
彼女は少しおどけて九条のお祖父様にお礼を言った。表向きは全く反応せず、顔をそむけて「もう一秒も見ていられない」とでも言いたげだった。
彼は手を振って、早く行けとばかりに追い払った。
「ほら、さっさと行け。ぐずぐずするな。」
九条のお祖母様は、高橋美咲が見えなくなった後も抑えきれない笑みを浮かべている九条のお祖父様を見て、呆れたような顔をした。
本当はすごく気にかけているくせに、どうして素直になれないのか。
「じゃあ、行ってきます。お祖母様、お祖父様のことよろしくお願いします。」
九条のお祖母様はうなずき、優しい表情で彼女を見つめた。
「ええ、気をつけて行ってらっしゃい。」
高橋美咲は車に乗り込み、運転手にドレスショップまで近道で行くよう指示した。
だが大通りに出ると、運転手も不思議そうに言った。
「なぜ近道を?今日は大通りも渋滞していませんよ。」
渋滞していない?
森川茉莉も困惑した。なぜなら、ドレスショップから「渋滞がひどくてドレスを届けられない」と連絡があったはずだからだ。このドレスは高橋美咲がデザインしたジュエリーに合わせて特別に急いで仕立てたもので、ドレス自体も彼女がデザインし、ショップに製作を依頼していた。
途中で少しトラブルがあり、今日ようやく完成した。ショップ側が「直接届ける」と言っていたのに、今度は「渋滞で無理」と言い出したのだ。
そうでなければ、高橋美咲が家で待機し、九条蓮と一緒にカクテルパーティーへ向かおうなどとは思わなかった。
今になって、彼女は何かに気づき、顔色がさっと青ざめた。
「大通りが空いているなら、そのまま大通りで。とにかく一番早く着ける道でお願いします。」
森川茉莉もうなずいた。「運転手さん、少し急いでください。」
高橋美咲は追加料金を払い、その分運転手もスピードを上げてくれた。あっという間にドレスショップに到着した。
店に入ると、VIPエリアでお茶を飲んでいる高橋彩花と、そのアシスタントの大庭理香が目に入った。
「社長、あの二人も来てます!」
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