Chapter 869
高橋美咲、初勝利(続)
今後もメゾン・ヴェルヌ・ジュエリーはできるだけハイエンド市場に特化し、中・低価格帯には手を出さない方がいい。お金の回収は少し遅くなるかもしれないが、ブランドの評判さえ築ければ、後からいくらでもビジネスは広がるし、稼ぐのに困ることは絶対にない。
本当は今夜、九条蓮は高橋美咲とロマンチックなキャンドルディナーを楽しみたかった。彼女をもてなすことで、少しでもリラックスしてほしいという思いもあった。
最近は二人とも忙しく、なかなか一緒に過ごす時間が取れず、会っても仕事の話ばかりだった。
店舗が無事オープンしたら美咲も少しは気が抜けるだろうと思っていたが、どうやらそうでもなさそうだ。
「今や俺よりも仕事人間だな。食事中に仕事の話をしたら消化に悪いぞ。」
高橋美咲は困ったように微笑んだ。「わかった。話したくないなら、食事を楽しもう。」
「食べ終わってから話そう。」
九条蓮は彼女には敵わないといった様子だった。
彼は、高橋美咲がここまで頑張っているのは、メゾン・ヴェルヌのためだけでなく、自分のためでもあると分かっていた。
九条インターナショナルを設立してから、確かに九条ホールディングスからいくつかの大型契約を奪ったが、新しい会社が完全に地盤を固めるのは簡単なことではない。モール業界の競争は激しく、状況は日々一変する。
独自ブランドが会社のイメージを支え、資金繰りを安定させるほどの規模にならなければ、他社も九条インターナショナルに大きな投資を任せようとは思わない。
ただ案件を受けてこなすだけでは到底足りない。
最後の一口を飲み込むと、九条蓮が口を開いた。
「ハイエンド市場に食い込むには、人脈を広げるしかない。」
「ちょうど近々、大規模なビジネスパーティーがある。一緒に行こう。」
大規模なパーティーか。確かに人脈を広げるには絶好の場だ。
高橋美咲は少し迷った表情を見せた。
「九条悠真も来るんじゃない?」
最近、彼は九条蓮にいくつかの大型案件を奪われ、九条インターナショナルに対して報復的な攻撃を仕掛けている。もし彼がいるなら、人脈作りも簡単にはいかないだろう。
パーティー当日、森川茉莉は電話でドレスの確認をしながら、高橋美咲がその日に身につけるジュエリーの準備もしていた。どれも高橋美咲が自らデザインしたもので、個性が際立ち、帝都で唯一無二と言っても過言ではない。
「社長、ちょっと時間がギリギリです。ドレスショップから連絡があって、道路が渋滞してるそうです。配達だと間に合わないかもしれません。」
「じゃあ、私たちで取りに行こうか?」
九条蓮はすでに玄関で待っていた。
「どうした?」
高橋美咲は階段を下りながら、「ドレスが届けられないって。ああいうドレスショップの人たちは、いつも人を見下してるのよ。オートクチュールの特注ドレスを頼んだわけでもないし、私のことなんて大して気にしてないんでしょうね。」と答えた。
九条蓮は高橋美咲が軽く扱われたと知り、目に不快感がよぎった。
彼はソファの上のジャケットを手に取り、「行こう。俺も一緒にドレスショップに行く。」と言った。
高橋美咲は時計を見て首を振った。「先にパーティーに行ってて。九条インターナショナルはまだ立ち上げたばかりで、みんながあなたの失敗を待ってる。遅刻したら、まさに思う壺よ。」
「ドレスくらい自分で何とかできるから、心配しないで。」
九条蓮はどうしても心配だったが、何か言おうとしたその時、ソファに座っていた九条のお祖父様が先に口を挟んだ。
「何をぐずぐずしてるんだ。美咲の方がよっぽど決断力がある。」
「こんなことで手間取るようじゃ、ジュエリーショップなんてすぐ潰れるぞ。」
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