Chapter 849
高橋美咲が泣くのはこれから(続き)
「うん、ちょうど今ビルの前にいる。」
高橋美咲がそう言い終わるか終わらないかのうちに、九条蓮の車が目の前に止まった。彼女はドアを開けて乗り込む。「九条蓮、どこに連れて行くの?」
九条蓮は口元を少し上げて言った。「秘密。すぐ分かる。」
そう言ってアクセルを踏み、高橋美咲を乗せて走り去った。
その頃、高橋グループのオフィス内。
大庭理香が高橋彩花に言った。「高橋マネージャー、さっき高橋美咲が九条蓮の車に乗って出ていくのを見ましたよ。九条蓮の車も今や普通の国産車に格下げされて、見る影もないですね。どうして高橋美咲はまだあんな男についていくんでしょう?」
それを聞いて高橋彩花は嘲笑した。
以前、高橋美咲が九条蓮と一緒に現れるたび、羨ましくて仕方なかった。あんな男を捕まえるなんて、運がいいと思っていた。
でも今となっては全部が笑い話だ。あの男は落ちぶれて何も持っていない。顔が良くても意味がない。
高橋美咲は高橋グループまで辞めてしまった。これから泣きを見るのは高橋美咲の方だ!
九条蓮は高橋美咲を近くのオフィスビルへ連れて行き、2人でエレベーターに乗って上階へ向かった。
高橋美咲は上昇していく階数を見つめながら、九条蓮がどこへ連れて行こうとしているのか、なんとなく察しがついた。
やがて、エレベーターが「チン」と音を立てて、ある階で止まった。
九条蓮は高橋美咲の手を取り、中へと導いた。フロア全体は真っ暗で、何も置かれていない完全な空きスペースだった。その広々とした空間はどこか不気味にも感じられたが、九条蓮がそばにいるので高橋美咲は怖くなかった。
彼女は九条蓮を見上げて尋ねた。「ここは何なの?」
「美咲、ここは俺が借りたオフィススペースだ。あと2日もすれば、手続きが全部終わって、新しい会社が正式に設立される。」
九条蓮の言葉を聞いて、高橋美咲の瞳がぱっと輝いた。
九条蓮がこんなにも早く動いていたとは思わなかった。もう場所まで決めていて、あと2日で会社が正式に立ち上がるなんて。
彼女は窓際まで歩み寄り、足元に広がる車の流れを見下ろした。夜の大阪は星のような光で輝き、ゆっくりと動く車たちはまるでアリのように見え、世界を支配しているような気分になった。
さっきここへ来る途中、高橋美咲は周囲の様子を少し観察していた。
ここはどうやら都心の中心部らしい。こんな場所、きっと需要がものすごく高いはず。
高橋美咲は興味津々で尋ねた。「ここって都心の商業エリアだよね。こんな場所を借りられるなんて、かなりお金がかかったんじゃない?実は、私たちはまだ始めたばかりだし、そんなにお金をかけなくてもいいと思う。ちゃんと軌道に乗ってからでも遅くないんじゃないかな。」
彼女は、九条蓮がこういう生活に慣れていなくて、いきなり無理をしてしまうのではと心配していた。
それを聞いて、九条蓮は静かに笑った。
彼は高橋美咲の隣に立ち、そっと腰に手を回した。そして窓の外の景色を見下ろしながら、微笑んで言った。「ちょっとコネを使ったから、そんなに高くなかったよ。お金がないなんて心配しなくていい。」
その言葉に、高橋美咲はほっとした。
九条蓮にまだコネがあるとは思わなかった。今の彼の立場で、助けてくれる人がいるなんて、本当に貴重な存在だろう。
彼女はため息をついて言った。「あなたの友達、本当に義理堅いね。」
九条蓮は意味ありげに微笑み、「義理の弟は、しっかり使い倒さないとな。」と言った。
義理の弟?
高橋美咲は少し考えてから、九条蓮の言う義理の弟が、九条凛と結婚予定の神谷海斗のことだと気づき、思わず苦笑いした。
九条蓮は突然高橋美咲の手を取り、隣のオフィスへと連れて行った。「美咲、ここがメゾン・ヴェルヌのオフィスになる。これからはここで仕事ができるよ。」
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