Chapter 847
高橋美咲、退職(続き)
高橋彩花はその言葉に満足げに微笑んだ。
これまでずっと高橋美咲を警戒してきたが、ようやく肩の荷が下りた気がした。
その時、誰かが報告に来た。「高橋マネージャー、高橋美咲さんが来ています。どうやら…退職手続きに来たようです。」
「えっ?」高橋彩花は思わず声を上げた。
九条蓮がもう何の地位も持たない今、高橋美咲はむしろこの機会に高橋グループでしっかり地盤を築くべきではないのか、一体何を考えているのか全く分からなかった。
「行きましょう、様子を見に!」高橋彩花は興奮を隠しきれず、急いで外へ出ていった。
その頃、高橋美咲は人事部で引き継ぎや退職手続きを進めていた。
「高橋マネージャー、本当に辞めちゃうんですか?」相沢紫苑は高橋美咲と一緒に高橋グループに入社した仲間だった。高橋美咲が辞めると聞き、戸惑いと寂しさが入り混じった表情を浮かべていた。
高橋美咲は相沢紫苑を見て、「紫苑、高橋グループは今とても順調に成長している。ここで頑張れば、きっともっと良い結果が得られるはずよ」と声をかけた。
隣にいた森川茉莉も、名残惜しそうに「高橋マネージャー、本当に決心したんですか?」と問いかけた。
高橋美咲が退職を決めた時点で、すでに二人の今後についても手配を済ませていた。自分だけのことを考えて、他人のことを顧みないような人間ではなかった。
相沢紫苑と森川茉莉を高橋彩花に引き継ぐのではなく、父・高橋正人に託していた。彼なら二人を意図的に苦しめるようなことはしないと信じていたからだ。
突然、森川茉莉が何かを決意したように深呼吸して、「私も退職します!」と言った。
そして高橋美咲に向き直り、「高橋マネージャー、私は東京からあなたと一緒に大阪まで来ました。あなたがいなくなるなら、ここに残る意味はありません。一緒に辞めます」と告げた。
相沢紫苑も「うん、私も一緒に辞めるつもり」と続けた。
以前、デザインの世界に戻るきっかけをくれたのは高橋美咲だった。だから、これからもずっとついていきたいと思っていた。
二人の真剣な表情を見て、高橋美咲は少し困ったような顔をした。
「二人を連れて行きたくないわけじゃない。でも、これからの私の状況は今よりもっと厳しくなるかもしれない。あなたたちも苦労することになるから、ここに残った方がいいのよ。」
九条蓮の新しい会社は先行きが不透明で、将来どうなるか分からない。だからこそ、二人にまで苦労を背負わせたくなかった。
それでも二人は同時に首を振り、「苦労なんて怖くありません。連れて行ってください。何があってもついていきます」と言った。
高橋美咲も本当は二人と別れるのが寂しかった。長い間一緒に戦ってきた仲間だ。どんな状況でも自分についてきてくれる二人の気持ちに、胸が熱くなった。
ため息をつきながら、「でも、私についてきたら今までのような待遇は受けられなくなるかもしれないよ」と伝えた。
相沢紫苑は「高橋マネージャー、人は損得だけで動くわけじゃありません。大事なのは義理…だから、私たちを連れて行ってください」と言った。
高橋美咲の目が少し潤み、静かにうなずいた。「分かったわ。」
その言葉を聞くと、二人はすぐに嬉しそうに人事部へ駆け出し、退職手続きを始めた。
人事部のスタッフは、相沢紫苑と森川茉莉があまりにも楽しそうにしているのを見て驚いた。普通、退職する人はみんな沈んだ顔をしているのに、こんなに嬉しそうな二人は本当に珍しかった。
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