Chapter 844
高橋美咲の決意
どういうわけか九条沙耶香もそのことを知ったらしく、九条悠真が九条家本邸の外で高橋美咲に復縁を懇願していたことまで耳に入った。その場で顔色がみるみる険しくなった。
あの高橋美咲という女は本当に厄介な狐女だ。昔は九条悠真をあんなに苦しめて、ようやく九条悠真が立ち直り、九条蓮を打ち負かしたというのに、まだ九条悠真を手玉に取っているなんて。
このままでは九条悠真がまたあの女に潰されてしまうのではと、本気で心配になった。
九条沙耶香はじっとしていられず、すぐに九条悠真のもとへ向かった。「悠真、高橋美咲に九条家本邸の前で平手打ちされたって本当?」
九条沙耶香は以前から高橋美咲を見下しており、身分も地位もない女だと思っていた。
だが後に高橋美咲が高橋グループの令嬢だと分かってからは、その立場に頭を下げざるを得なかった。しかし高橋美咲のせいで九条悠真があんな目に遭ってからは、再び高橋美咲への憎しみが募っていた。
今度は高橋美咲が九条悠真に手を上げたと聞き、到底その怒りを抑えきれなかった。
「うん」と九条悠真は低い声で答えた。
「なに?あの女があんたに手を上げたって?絶対に許さない!」九条悠真が高橋美咲に叩かれたと聞いた瞬間、九条沙耶香はその場で激昂した。歯ぎしりしながら「今のあんたの立場は昔とは違う。もうあの女に媚びる必要なんてないのよ。このまま済ませるなんて絶対にダメ」と言い放った。
正直、九条悠真もこのままでは納得できなかったが、考え直して結局その気持ちを抑えた。
心の奥底では、まだ高橋美咲に対してどこか寛容な気持ちが残っていた。かつて手に入れられなかったからこそ、今は執着のようなものが生まれていたのかもしれない。
どうせいつか高橋美咲は後悔するはずだ。
九条悠真はこの話をさっと流し、九条沙耶香をなだめた。「母さん、この件にはもう口を出さないで。今は俺たちも九条家本邸に住んでるんだし、母さんはこの家の奥様なんだから、周りとの付き合いを大事にしてくれた方が、俺も今後ビジネスの話がしやすくなる」
ちょうど九条ホールディングスを引き継いだばかりで、周囲との人脈に頼って地盤を固める必要があった。
九条沙耶香は心の中でため息をついた。まるで夢を見ているようだった。以前は東京でどん底の生活を送り、高橋美咲のせいで九条悠真も苦しみ、自分自身も周囲の笑い者になっていた。それが今、ようやく胸を張って生きられるようになったのだ。
「わかったわ、母さん。まだやることがあるから」と九条悠真。
そう言うと、九条悠真はそのまま書斎へと向かった。
九条沙耶香はその場に立ち尽くし、まだ不安が拭えなかった。九条悠真は何事もなかったように振る舞っているが、実際はまだ高橋美咲を諦めていない。このままでは、いずれ高橋美咲が九条悠真の弱点になってしまう!
高橋美咲はすでに九条蓮と一緒にいるのに、九条悠真は全く気にしていない。それだけ高橋美咲への執着が強い証拠だ。
ダメだ——
何か手を打たなければ。二度と高橋美咲に九条悠真を傷つけさせるわけにはいかない!
九条沙耶香の目に暗い光が宿った。すでに何か考えがあるようだった。
…
その頃、マンションの中。
高橋美咲はキッチンで料理に精を出し、九条家の大旦那様と大奥様はソファでテレビを見ていた。
穏やかで家庭的な空気が流れていた。
九条蓮ももともとは二人の長老と談笑していたが、ふと高橋美咲の方を見てから「お祖父様、お祖母様、美咲一人じゃ大変だから、僕も手伝ってくるよ」と声をかけた。
そう言うが早いか、九条蓮はすぐに立ち上がり、キッチンへ向かった。
九条家の大旦那様はちらりと目をやったが、今回は何も言わなかった。
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