Chapter 840
美咲が君を選ばなかったのは正しかった
九条蓮は表情を変えず、淡々と告げた。「俺は本邸を取るつもりはない。ここはお祖父様の人生そのものだ。」
「ふざけるな!」九条智久は冷たく言い放つ。「もうお前は追い出された身だ。何も残ってないくせに、まだ何か奪おうとするのか?もういい、さっさと親父を連れて出て行け。さもないと、全員叩き出すぞ!」
そう言い終えると、九条智久は隣にいた九条悠真に向かって「悠真、こいつらを追い出せ。俺はこれからビデオ会議だ」と命じた。
その場を九条悠真に任せ、九条智久は車に乗り込む。車は皆の前を通り抜けて九条家本邸に入り、すぐに姿を消した。
九条悠真は九条蓮と高橋美咲を見据え、冷笑を浮かべて嘲るように言った。「九条蓮、お前もまさかこんな日が来るとは思わなかっただろう?」
九条蓮は特に感情を表に出さず、「少しは驚いたよ」とだけ答えた。
「昔、俺が東京に行ったとき、お前は偉そうにして会おうともしなかったよな。今やっとお前の頭を踏みつけることができた!」そのことを思い出すだけで、九条悠真は大きな満足感を覚えた。
彼はずっと以前の出来事を根に持ち、九条蓮から受けた屈辱を忘れられずにいた。
今や自分は若き九条家の御曹司として成功を謳歌し、毎日華やかな交際に忙しい。しかし、心の奥底には一つだけ心残りがあった。それが高橋美咲だった——
男は必ずしも女を深く愛しているわけではない。ただ、手に入らないものほど魅力的に見える。それがまさに九条悠真の心理だった。心の底では、どうしても高橋美咲を手に入れたいと渇望していた。
九条悠真は高橋美咲に視線を向け、どこか未練の残る優しさを目に浮かべて、静かに語りかけた。「美咲、今まで何度もチャンスをやった。今回もう一度だけチャンスをやる。俺のところに来い。九条蓮にはもう何も残っていない。あいつと一緒にいても、何一ついいことはないぞ。」
「俺のところに来れば、これからはずっと九条家で暮らせる。もう蓮と一緒にあの狭いアパートで我慢する必要もない。どうだ?」
「美咲、今から三つ数える。俺のところに歩いて来い。」
以前、美咲が拘置所にいたときも、九条悠真は何度も説得しに行ったが、そのたびに美咲は彼を冷たくあしらい、時には怒らせて帰らせたこともあった。だが悠真は、いずれ彼女も目を覚ますと信じていた。
今この状況なら、高橋美咲は必ず自分を選ぶはずだ!
もし美咲が九条蓮の目の前で自分を選べば、それは蓮にとっても大きな打撃になるだろう。
九条悠真は自信満々に口元を歪め、カウントダウンを始めた。「三、二、一……美咲、こっちに来い!」
高橋美咲の目が翳り、彼女は一歩、九条悠真の方へと歩み出した。
その光景に、後ろにいた全員が息を呑んだ!
九条家の大旦那様は美咲への見方を変えていたが、まさか今になっても彼女が悠真を選ぶとは思ってもみなかった。この女はやはり駄目だ、と憤りを隠せない。
九条蓮の視線は氷のように冷たかったが、それでも落ち着いたままその場に立ち続けていた。まるで美咲が悠真の方へ歩いても驚きもしない、むしろ彼女を信じ切っているかのようだった。
九条悠真は美咲が本当に自分を選んだのを見て、興奮気味に口元を歪めた。「九条蓮、今のお前は本当に惨めだな。美咲までお前を見捨てたんだ。」
高橋美咲はついに九条悠真の前に歩み寄った。九条悠真は高橋美咲が自分の前に立つのを見ると、一瞬だけ優しげな表情を浮かべ、手を伸ばして高橋美咲の手を取ろうとした。「美咲、君は正しい選択をしたよ。さあ中に入ろう。今夜は必ず君を大切にするから。」
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