Chapter 84
まだお会計、済んでませんよ
「何ですって!」二人は目を見開いた。
九条凛はずっと我慢していたが、ようやく鬱憤を晴らせる時が来た。すぐにスマホを取り出し、吉田美玲の番号に電話をかけた。
電話はすぐにつながった。
明るい女性の声が響く。「九条さん、もうドレスはお決まりですか?もし気に入るものがなければ、私のコレクションから特別な一着もご用意できますよ。前回も欲しいと言われたけど、手放せなかったんです。」
九条凛は冷笑し、皮肉たっぷりに言った。「ドレス選び?狂犬に噛まれて、そんな気分じゃないわ。あなたのお店、ペットショップも兼ねてるのね。」
「えっ?」吉田美玲の声が緊張に変わった。
「ご自分で見に来たら?」
九条凛はそう言って、電話を切った。
店内の人々は顔を見合わせ、彼女が本当にオーナーと知り合いで電話したのか、それとも脅しで芝居を打っているのか判断がつかなかった。
特に店長は、胸騒ぎがしてならなかった。
まさか、この地味な二人こそが今日のVIPだったのでは?自分は完全に見当違いの相手に媚びていたのか?
考えれば考えるほど顔色が青ざめ、完全にパニックに陥った。
10分後、吉田美玲スタイリングスタジオのオーナー・吉田美玲が、焦った様子でドアを押し開けて入ってきた。「どうしたの?」
店長はオーナーが直々に来たのを見て、心臓が止まりそうになった。
終わった……!
本当に媚びる相手を間違えた。今日一番もてなすべきは桜井奈緒ではなく、あの二人だったのだ!
店長はすぐに前に出て、高橋美咲が先ほど桜井奈緒を怒らせた経緯を説明した。
話を聞き終えた吉田美玲は顔を曇らせ、店長を鋭く睨んだ。誰が勝手に判断しろと言ったのか。
桜井奈緒には目もくれず、急いで九条凛と高橋美咲のもとへ。「申し訳ありません。スタッフが大事なことを理解していませんでした。ボーナスは減額します。」
九条凛は高橋美咲を見て、「美咲、どうする?」と尋ねた。
高橋美咲は三人を見やり、淡々と言った。「さっきこの二人がドレスとジュエリーをレンタルして、まだ支払いをしていません。まずはお金を回収した方がいいですよ。」
吉田美玲は店長に「早くお会計してきなさい!」と指示した。
自分の非を悟った店長は、もうこれ以上遅らせることはできず、月島瑠奈と望月麗奈のもとへ直行した。「お客様、今お持ちのドレスは当店の看板商品です。レンタル料は一日につき千五百万円です。」
二人は目玉が飛び出しそうになり、今にも血を吐きそうだった。
「一日千五百万円!?強盗じゃないの!」と叫んだ。
店長はにっこりと微笑み、「この二着はクリスタルとダイヤモンドがあしらわれていて、それぞれ九億円の価値があります。今お持ちのジュエリー代もまだ含まれていませんし、あ、そうそう……保証金も必要ですから……」
月島瑠奈と望月麗奈は呆然とした。「わ、私たち……」
二人は、ついさっきまで店長が土下座せんばかりにへりくだっていたのを見ていたのに、今度は手のひらを返したように自分たちを知らないふりをしている。その変わり身の早さはまるで四川オペラの変面のようで、完全に唖然としてしまった。
実のところ、店長にもどうしようもなかった。さっきうっかりVIPを怒らせてしまったのだ。
今となっては、そのVIPを満足させることだけが自分の失敗を取り戻す唯一の方法。もう背水の陣だった。
月島瑠奈と望月麗奈は、まるで助けを求めるように桜井奈緒を見つめた。
桜井奈緒は眉をひそめ、店長を見上げて言った。「どういうこと?さっき私たちの分はサービスすると言ったじゃない。」
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