Chapter 839
実は犬だった
九条智久はまったく動じる様子もなく、冷たい目で大旦那様を見下ろしていた。その視線はまるで自分の父親ではなく、赤の他人を見るような冷淡さだった。
彼は眉をひそめ、この場で大旦那様に何かあれば自分が面倒を被ることになると警戒し、「門番たち、早く大旦那様をお連れしろ」と命じた。
その言葉を受けて、門の男たちがすぐに前に出た。
「ふざけるな!」九条家の大旦那様は怒鳴った。
「大旦那様、どうかご無理をなさらないでください。」
実の息子がここまで冷酷になったのを見て、九条家の大奥様はあまりの悲しさに涙を流した。子や孫に囲まれるのが人生最大の幸せだと言われるが、九条家のように子が多ければ争いも絶えない。
このままでは、二人の老人は家を失い、路頭に迷うことになる。
まさに両者が一触即発となったそのとき、背後から低い声が響いた。「やめろ!」
皆が振り返ると、九条蓮が車から降りてくるのが見えた。彼は冷たい表情で歩み寄り、全身から鋭く凍りつくような威圧感を放っていた。
九条蓮はすでに九条ホールディングスを離れていたが、その圧倒的な存在感は今もなお健在だった。堂々とした足取りで近づいてくる彼に、警備員たちも周囲の者たちも一歩も動けずにいた。
九条智久でさえ、一瞬動きを止めてしまった。かつて九条蓮が会社を率いていた頃、彼は蓮の部下だった。今の九条蓮の姿を見て、あの頃の支配下にあった日々を思い出し、顔色が一気に曇った。深く息を吸い、気持ちを落ち着ける。
九条智久の目が危険な光を帯びて細められる。
この年下の親族は、もう少しで九条ホールディングスの後継者になるところだった。もし今回、九条悠真の助けがなければ、短期間で九条ホールディングスを手に入れることはできなかっただろう。そうなれば、自分が蓮に頭を下げる羽目になっていたかもしれない。その光景を想像するだけで、たまらなく不快だった。
だが幸いにも、今や九条ホールディングスは自分のものとなり、九条家本邸も会社の資産として手に入れた。
しかも九条蓮を追い出したことで、もう自分のそばで会社を狙う者に悩まされることもない。
高橋美咲も九条蓮のそばにいた。この日、もともとは蓮と食事に行く予定だったが、突然「大旦那様がすでに退院した」との連絡が入った。
二人は急いでここへ駆けつけた。
今や九条家は九条智久に占拠されており、大旦那様が戻れば必ず不利な状況になる。もし大旦那様と智久が衝突すれば、何か起きるのではと心配だった。
高橋美咲は急いで九条家の大奥様のもとへ駆け寄り、そっと支えながら「お祖母様、大丈夫ですか?」と声をかけた。
九条家の大奥様は美咲の姿を見ると目を潤ませ、「美咲、あなたも蓮も来てくれたのね」と感極まった様子で言った。
九条家の大旦那様も九条蓮の姿を見て、ほっとした表情を浮かべた。彼の目には蓮はまだ子供のように映り、心配も尽きなかったが、やはり蓮が現れると大きな安心感を覚えるのだった。
九条智久は九条蓮を見て、鼻で笑った。「九条蓮、ちょうどいいところに来たな。大旦那様がここで大騒ぎして困ってるんだ。さっさと連れて帰れ。これ以上騒がれたら面倒だぞ!」
九条蓮は冷ややかな目で九条智久を見つめた。「叔父さん、本邸はお祖父様の人生そのものだ。会社を取ったのは仕方ないとしても、本邸まで奪うのか?」
「はっ!」九条智久は嘲るように鼻で笑い、九条蓮を見据えて言った。「何を言ってる?大旦那様はお前を贔屓して、俺たち息子を差し置いて家を譲ろうとした。もし本邸を大旦那様に任せたら、結局お前のものになるだけだ。俺がそんなバカだと思うか?タダで渡すわけないだろう。」
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