Chapter 834
彼の決断
九条家の大旦那様はこれ以上九条蓮を説得しようとはせず、ただ度を越さないようにとだけ念を押した。
「わかった。数日休んだら、必ず戻ってこい。」
「うん、わかってる。」
電話を切った後、九条蓮はもう何もする気が起きず、少し眉をひそめて、何を考えているのか誰にもわからなかった。
「九条蓮……」高橋美咲は目の前の彼にそっと腕を回し、胸が締め付けられる思いだった。
彼が自分を迎えに拘留所まで来てくれた時から、彼の目の下の大きなクマに気づいていた。この数日、ろくに眠れていないのだろう。
九条家の大旦那様の世話をしながら、自分を救う証拠も探してくれていた。
ここまで持ちこたえてきたこと自体、並大抵のことじゃない。
「あなたも無理しないで。ずっとそばにいるから。九条凛に言ったことは、全部本心だったの。」
九条蓮は微笑みながら、高橋美咲の頭を優しく撫でた。
…
翌日。
二人とも前夜はよく眠れなかった。昼間の出来事が影響していたのかもしれない。お互いを気遣って、どちらも自分の悩みを抱えていた。
夜明け前、九条蓮はもう眠れないと感じて、起きてキッチンで朝食を作り始めた。
高橋美咲がキッチンからの物音で目を覚ました時には、すでに朝の7時半だった。
パジャマ姿のまま、ダイニングの椅子にもたれてのんびりしていた。
物音に気づいた九条蓮が、出来立てのサンドイッチを運んできた。その視線が高橋美咲の白い肌に触れた瞬間、目が一気に暗くなり、すぐに視線を逸らした。
朝の男ほど危険なものはない。昨日はいいところで邪魔が入ったし、一晩経てば当然またその気になる。
低い声で「美咲、服を着て。風邪ひくぞ」と言った。
高橋美咲はその声に振り向き、襟元が少し開いて春の景色が広がっているのに気づいた。
「ん?この服、気に入らない?じゃあ後で捨てちゃおうかな。」
「……」
九条蓮が気に入らないはずがない。むしろ大好きだ。
こんな時は、行動で示すしかない。高橋美咲が反応する間もなく、彼は彼女を抱き上げていた。
結局、朝食も食べずに二人は寝室へ戻ってしまった。
半開きのドアの外では、なおなおが騒がしく吠えていた。起こされて不満そうだ。
なおなおも騒ぐが、飼い主の方がもっと手に負えない。
男が動きを止めた瞬間、高橋美咲は腰が砕けそうになり、昨夜このパジャマを着たことを激しく後悔した。
絡み合ったまま、九条蓮は彼女の腰を気遣い、大きな手で優しく揉みほぐしてくれた。
「会社には戻らないつもりだ。数日後も、だ。」
「うん……」
高橋美咲は、彼がそう決断するだろうとすでに予想していた。
大きな魚を釣るには、長い糸を垂らすもの。
そうしないと、九条悠真の警戒を解くことはできない。
「他の会社で働くつもり?それとも九条ホールディングスのライバルに?」と高橋美咲は尋ねた。
今の九条蓮の状況では、高橋美咲ができることは少ない。高橋彩花の件もあるし、彼の決断を無条件で支えることしかできなかった。
九条蓮は彼女の首筋に顔を埋めた。「どちらでもない。ゼロから始めたい。」
もう決めていた。どこかで雇われたり、ライバル会社に行ったりするより、自分で一から立ち上げる方がよほど痛快だ。
それに、九条悠真の性格を考えると、何か大きな動きがある気がしてならない。
外で会社を立ち上げておけば、万が一の備えにもなる。
お祖父様もきっと応援してくれる。
高橋美咲はふと納得し、ぽつりとつぶやいた。「なんで私、そこに気づかなかったんだろう。九条ホールディングスの中の目のない連中に追い出されたんだし、たとえ会社を取り戻しても株主たちに縛られる。でも、あなたの経営の才覚は健在なんだから、独立した方が絶対にいい。」
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