Chapter 819
九条悠真の思惑(続き)
最初はただの毒殺事件だと思っていた。まさかこんなに複雑な問題が絡んでいるとは思いもしなかった。九条悠真がずっと実力を隠していたのも納得だ。あれだけ傲慢だったのも無理はない。
それでも高橋美咲は九条蓮を信じていた。彼なら必ず困難を乗り越えて、自分を助け出してくれると信じていた。
あっという間にさらに2日が過ぎた。高橋美咲はここでは何の情報も得られなかった。
その間に九条悠真が2度訪ねてきた。自分のことをすでに知っていると分かると、九条悠真はもう隠すことなく、あからさまに傲慢な態度を見せた。「美咲、今の俺の状況はもう知ってるんだろ?だったら、俺にはお前を助け出す力があるって分かるはずだ。俺と一緒になるなら、すぐにでもここから出してやるよ。」と嘲るように言った。
高橋美咲は冷たい目で九条悠真を見つめた。
彼が話し終えるのを待ってから、静かに言った。「九条悠真、あなたが九条蓮に劣っているところが分かる?」
九条悠真は一瞬固まり、高橋美咲を鋭く睨みつけた。
「九条蓮はあなたみたいに卑劣じゃない。たとえ私を騙したことがあっても、決してこんな卑怯な手で私を追い詰めたりしなかった。あなたは九条蓮には到底及ばない。」
九条悠真は激昂し、鋭い目つきで高橋美咲を睨みつけた。
「今日、九条蓮は俺に九条ホールディングスから完全に追い出されたんだぞ!今、会社を動かしてるのは俺だ!」と九条悠真は鼻で笑い、続けて吐き捨てる。「九条蓮なんて今や野良犬同然だ。俺と比べて、あいつに何があるっていうんだ?」
高橋美咲は心底軽蔑した表情で顔を背け、もう九条悠真に一切関心を示さなかった。
そんな彼女の態度に、九条悠真は歯ぎしりしながら言った。「美咲、俺はまだお前に我慢してやってるんだ。そのうち目が覚めると信じてる。いいさ、待ってやるよ。」
そう言い残して、九条悠真は部屋を出て行った。
高橋美咲は言葉にできないほど嫌悪感を覚えた。どうして昔、九条悠真に惹かれたのか自分でも分からない。でも、それももう過去のこと。今の彼女の心にいるのは九条蓮だけだった。
はあ……九条蓮は今どうしているのだろう。
さらに2日が過ぎ、九条凛が再び高橋美咲を訪ねてきた。
今回は前回よりもさらに顔色が悪く、すっかり憔悴しきっていた。
高橋美咲の顔を見るなり、九条凛の目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
高橋美咲は驚いて、何か大変なことが起きたのではと慌てて尋ねた。「凛、どうしたの?泣かないで。兄さんに何かあったの?」
高橋美咲は外の状況を何も知らず、もともと不安でいっぱいだった。そんな中、九条凛がまるで世界の終わりのような顔で現れたので、九条蓮に何かあったのではと疑わずにはいられなかった。
九条凛はため息をつき、服の中から一枚の白い紙を取り出した。
「美咲、これにサインして。」
高橋美咲は目を伏せて紙を見た。九条凛が差し出したのは離婚届だった。
署名欄には九条蓮の名前がすでに書かれていた。どうやらずっと前にサインされていたようだ。
高橋美咲の瞳は大きく見開かれ、拳を握りしめてかすれた声で尋ねた。「凛、これはどういうこと?どうして私にこれを渡すの?」
その時、高橋美咲の頭に浮かんだのは、なぜ九条蓮がこんなことをするのかという疑問だった。
自分が九条のお祖父様の毒殺事件に巻き込まれたから、離婚したいということなのか?
でも、まだ事件の真相は分かっていないはず。九条蓮は自分を信じてくれないのか?
高橋美咲の頭の中には無数の可能性がよぎったが、どれも九条蓮が離婚を望んでいるという事実を受け入れられなかった。
これまで何度も離婚を巡って争い、実際に離婚寸前までいったこともあった。
でも今はやっとお互いの気持ちを確かめ合えたのに、どうしてこんなに簡単に諦められるのだろう。
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