Chapter 800
本当にそんなに冷たい心なのか(続き)
「大丈夫。」高橋美咲は慌てて断った。
こんな関係は、もういけないと思った。
少し迷いながら言葉を選び、高橋美咲は口を開いた。「九条蓮、私たちはもう別れるって決めたんだから、こんなことしちゃいけない。」
九条蓮は口元に微かな笑みを浮かべた。「さっきキスしたとき、君は拒まなかったよね。」
その言葉に、高橋美咲はそっと唇を噛んだ。
そう言いながらも、本当は九条蓮と触れ合いたい気持ちがあったのではないか。
だから彼にキスされたとき、どうしても突き放せなくて、今の結果になってしまった。
目の奥がじんと苦くなる。本当は、まだ九条蓮のことが好きなのに、その気持ちを隠して守るしかなかった。
たった一度の触れ合いで、すべてが崩れてしまうのは嫌だった。
高橋美咲が言葉を失っているのを見て、九条蓮はますます満足そうだった。
やっぱり、高橋美咲はまだ自分のことが好きなのだ。いろんな事情があって、仕方なく自分を手放しただけ。
「美咲。」九条蓮は真剣な眼差しで高橋美咲を見つめ、頬にキスをしてから言った。「もうお互いを苦しめるのはやめよう。やり直そう、な?」
高橋美咲の瞳が揺れ、布団の下で手がぎゅっと握りしめられた。
彼女は少し目を伏せ、長い間黙ったままだった。
九条蓮は続けた。「君がまだ俺に気持ちがあるのは分かってる。本当は、君の前の障害を全部取り除いてから、改めて君を追いかけようと思ってた。でも、もう君に会えないのが耐えられなくて、君の向かいに引っ越したんだ。そうすれば毎日君に会えるから。」
「あなた……」高橋美咲は顔を上げて九条蓮を見つめた。
彼の瞳は深く真剣だった。今の言葉には一切の嘘がなく、心からのものだった。
高橋美咲はずっと彼のことが好きだった。今、彼の口からそんな言葉を聞いて、胸の奥から抑えきれない感情がこみ上げてきた。
だが、彼女にはまだ不安があった。
二人の間には一つだけでなく、いくつもの障害がある。ただ全てを投げ出して一緒になる、そんな単純な話ではなかった。
九条蓮は高橋美咲が何を心配しているのか分かっていた。
彼は高橋美咲を腕の中に引き寄せ、キスをしてから言った。「俺たちはまだ法律上は夫婦だ。この間、俺が離婚届をわざと出さずにいたのも、君がもう一度俺を探しに来なかったのも、結局君も俺を手放せなかったからだろ?」
「あなたのお祖父様は私のことを嫌っているし、それにあなたの四叔父様と私の母のこともある。もう私たちに可能性なんて残ってないと思うの。」
九条蓮は笑って言った。「もう家を出たから、あの人には俺のことはどうにもできない。それに、俺が九条会長を怒らせて九条ホールディングスの権力を失うんじゃないかって心配してるなら、それは必要ない。俺は絶対に九条ホールディングスを手に入れるつもりだ。」
しばらく沈黙した後、九条蓮は腹を割って話すことにした。
「実は、俺は九条ホールディングスを追い出されたわけじゃない。ずっと水面下で準備してたんだ。完全に九条ホールディングスを掌握したら、もう誰にも俺たちの仲を邪魔させない。美咲、信じてくれ。な?」
高橋美咲は固まったまま、何も言えなかった。
九条蓮が全てを分かっていて、しかもすでに準備を進めていたなんて思いもしなかった。
気付けば、彼は二人のために必死で動いているのに、自分はずっと殻に閉じこもって、一歩も踏み出せずにいた。
急に罪悪感がこみ上げ、自分があまりにも臆病で、問題にぶつかるたびに逃げてばかりだったと感じた。
九条蓮と一緒に前に進み、困難に立ち向かう勇気すら持てなかった。
どこからその勇気が湧いたのか分からないが、高橋美咲は九条蓮を見つめて言った。「九条蓮、あなたを信じる。」
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