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裏切った婚約者の叔父と、間違って結婚しました

Ch. 8 - 高橋美咲は彼の正体を知らない

Chapter 8

高橋美咲は彼の正体を知らない

相手をなだめたあと、急いで着替え、バッグを肩にかけて家を出た。

大学時代、高橋美咲は美術を選択していた。卒業後は母親の世話をしやすいように、フリーランスの壁画アーティストになった。依頼があればどこへでも出向いて仕事をしている。

今回は桜井奈緒がわざと見知らぬ人の名前で東京の仕事を依頼し、高橋美咲が九条悠真の件に巻き込まれるよう仕向けていたのだ。

桜井奈緒は本当に策士だ!

階下に降りると、高橋美咲はスーツ姿でビシッと決めた九条蓮と鉢合わせた。

彼は真っ黒なシャツに黒のスラックスを身にまとい、全身からミステリアスでクールな雰囲気を漂わせていた。パリッとしたシャツは広い肩を際立たせ、パンツのラインもシャープで、どこを取っても気品と優雅さがにじみ出ている。

九条蓮の視線が高橋美咲のリュックに向けられる。

彼女は自分から説明した。「ちょっと仕事の用事があって、出かけてきます。」

九条蓮は軽くうなずき、それ以上は何も聞かなかった。

高橋美咲は急いでいたので、九条蓮にもそれ以上何も言わず、さっとドアを開けて出ていった。

そのとき、九条蓮のポケットの中で電話が鳴った。

彼がスワイプして応答すると、真壁直人の声が聞こえてきた。「九条社長、九条夫人が会社の外壁に巨大なキャラクターの絵を描きたいとおっしゃっています。」

九条蓮は眉をひそめ、目が少し暗くなった。

九条夫人は彼の従兄の妻だ。

九条家の本拠地は大阪にあり、祖父が取り仕切っている。ここ東京には九条ホールディングスの東京支社がある。三か月前、九条沙耶香が突然息子の九条悠真を連れて東京にやってきて、九条ホールディングス東京支社で仕事を学びたいと言い出した。

何年も連絡も顔を合わせることもなかったのに、急に権力にすり寄ってきたのはどうにも不自然だ。

きっと祖父のもとでは見込みがないと感じ、最近自分が祖父に気に入られているのを見て、その威光にあやかろうとしているのだろう。

彼らを会社に入れる手配をしたあと、九条蓮は出張に出ていて、まだ正式に顔を合わせていなかった。

「うん。描かせてあげて。」九条蓮は答えた。

電話を切ったあと、ふと高橋美咲のことを思い出した。

妻がどこの家の出身なのか、聞きそびれていた。東京には高橋家のような名家は見当たらないが、大阪の高橋家なら聞いたことがある。

高橋美咲はタクシーで依頼主から指定された住所へ向かった。

タクシーの運転手はおしゃべり好きで、住所を見るなり話しかけてきた。「お嬢さん、九条インターナショナルに行くんですね。」

高橋美咲は不思議そうに尋ねた。「はい。何か問題でも?」

「九条インターナショナルは大阪の九条ホールディングスの東京支社ですよ。東京で知らない人はいません。お仕事で行くんですか?あそこに入るのはなかなか大変だって聞きますけど…」

高橋美咲の目に驚きの色が浮かんだ。

九条インターナショナルが九条ホールディングスの一部だったなんて、全く知らなかった。普段から経済ニュースには疎いのだ。

ということは、九条悠真に会う可能性もあるのか?

すぐに高橋美咲は気を取り直した。依頼主と話した相手は九条インターナショナルのマネージャーらしいし、九条悠真に会うことはないだろう。

いや、違う!

裏切られたのは自分なのだから、あんな最低な九条悠真を恐れる必要なんてない。

高橋美咲は小さく鼻を鳴らし、きっぱりとした表情になった。

そのとき、車内のラジオからアナウンサーの声が流れてきた。

「本日は大阪高橋家当主・高橋正人様と奥様をチャリティーイベントにお迎えしています。愛する奥様をお連れになったご感想やエピソードをお聞かせいただけますか?」

その声を聞いた瞬間、高橋美咲は一瞬ぼう然とした。