Chapter 784
なぜ九条蓮はまだ帰らないのか
高橋美咲が本当は辛いのに、それを見せまいとしている姿に、胸が締め付けられる思いだった。
西園寺陸は一体どういう対応をしているのか、きちんと話をしなければならない。
九条蓮は続けて尋ねた。「投資しないって直接西園寺陸本人から言われたのか?」
高橋美咲はその言葉に一瞬固まった。よく思い返してみると、出てきて話した人は自己紹介をしていたが、西園寺陸本人ではなかった気がする。
彼女は小さく首を振った。「西園寺陸じゃなかった。たぶん部下の人だったと思う。」
少し間を置いてから続けた。「でも西園寺陸の代理として来ていたから、きっと西園寺陸の意向なんだと思う。」
高橋美咲は自分を納得させるように、「お金を持っているのは投資家だし、急に気が変わっても私にはどうしようもない」と言った。
二人の間に沈黙が落ちた。
しばらくして、九条蓮ははっきりとした口調で言った。「必ず誰かが君に投資してくれる。」
高橋美咲はその言葉を聞いて、これまで九条蓮が自分を助けてくれたことを思い出し、胸の奥が不思議な感覚でざわめいた。
本当にそんなに自信があるのだろうか。
九条蓮と離れるのが、少しだけ惜しい気がした。
慌てて顔を伏せて、ご飯をかき込むことで気持ちを隠した。
夕食が終わっても、九条蓮は帰ろうとしなかった。高橋美咲がキッチンで食器を洗っている間も、彼はリビングのソファに座ったまま。彼女は何度も外を気にしていた。
心の中で「どうして九条蓮はまだ帰らないの?」と何度もつぶやいた。
高橋美咲は時間を稼ごうとした。食器は二人分の茶碗と数枚の皿だけ。二度洗ったとしても十分な時間が経っているはずだった。
今の二人の関係は、どこかぎこちなく感じられた。
夫婦でもなく、友人とも違う。
どうしてこうなってしまったのか分からない。九条蓮が今こんなに落ちぶれてしまったから、自分の中に罪悪感があって、二人きりになるのが怖いのかもしれない。
九条蓮の現状は、九条家の大旦那様が怒って罰を与えているだけ。素直に謝れば、きっと戻れるはず。
どうせ二人に未来はない……
今仲直りしたとしても、また同じことを繰り返すだけかもしれない。
だから、これでいい。
高橋美咲の気持ちは急に沈んだ。
どうしようもない。結局、これ以上キッチンに居続けることはできず、片付けを終えてリビングに戻った。
ソファには九条蓮が落ち着いた様子で座っていて、表情も冷静だった。
高橋美咲は九条蓮を見て言った。「ご飯も終わったし、もう遅いから。明日も仕事あるでしょ?今日は早く帰って休んだら?」
九条蓮は高橋美咲をじっと見上げた。
その視線に、高橋美咲は思わず身構えた。今夜ここに泊まりたいと言い出すのでは、と不安になった。
このマンションは2LDKだったが、高橋美咲は荷物が多かったため、もう一つの部屋にすべて収納していた。
高橋美咲の目に強い警戒心が浮かんでいるのを見て、九条蓮は彼女が何を心配しているのかすぐに察した。
本来なら、高橋美咲が部屋から出てきたタイミングで、二人のことについてきちんと話そうと思っていたが、考え直してみると、まだその時ではないと感じた。
もう少し我慢しなければならない。
高橋美咲が不安を感じているとき、九条蓮は何も言わず、ただ立ち上がって外へ出ていった。
九条蓮を見送ってから、高橋美咲はようやくほっと息をついた。
幸い、特に予想外のことは起きなかった。やっぱり、九条凛から余計な話を聞きすぎて、自分もつい色々と考えすぎてしまったのだ。
…
その頃、九条蓮は自分のマンションに戻っていた。
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