Chapter 783
美咲の方から会いに来る(続き)
その視線に気づいた高橋美咲は、気まずそうに視線をそらした。
軽く咳払いをして、「凛ちゃんが、九条ホールディングスも辞めるって言ってたけど、本当?」と尋ねる。
九条蓮の目に一瞬、陰りが走った。
九条蓮に九条ホールディングスを辞めるつもりはない。全部、九条凛が勝手に自分を悲惨な状況に仕立て上げただけだ。だが、もうそう言われてしまった以上、否定するわけにもいかない。
九条蓮は低く返事をした。
高橋美咲は箸を置き、九条蓮をまっすぐ見つめた。
真剣な表情で、「九条蓮、どうしてそんな状況に自分を追い込むの?九条ホールディングスの後ろ盾がなければ、これからの生活も仕事も大変になるよ。東京でも、前みたいにはいかなくなるかもしれない。」と言った。
九条蓮が以前東京でうまくやってこれたのは、すべて九条インターナショナルの後ろに九条ホールディングスがあり、豊富な人脈や資源があったからだ。
もし九条ホールディングスの支えを失えば、徐々に状況が悪くなっていくかもしれない。
それに、九条ホールディングスという巨大な帝国を本当に手放すつもりなのか?
九条蓮は淡く微笑み、「不自由な生活はもう経験したことがあるから、受け入れられるよ。」と答えた。
九条蓮が言っていたのは、かつて東京で高橋美咲と一緒に過ごしていた頃、自分の正体を隠していたあの日々のことだった。
高橋美咲「……」
一瞬、九条蓮は感情が安定しているのか、それともただ心が広いだけなのか、どちらなのか分からなくなった。
九条蓮はわざと話題をそらすように、何気なく尋ねた。「今日は投資家に会いに行ったんだろう?どうだった?うまくいった?」
九条蓮は西園寺陸とつながりがあり、高橋美咲が急いで投資を必要としていると知ると、すぐに西園寺陸に連絡を取り、協力を頼んだ。
西園寺陸は高橋美咲が九条蓮の妻だと知ると、胸を叩いて「必ず投資する、いくらでも大丈夫」と約束してくれた。
高橋美咲の気持ちは確かにそちらに向いた。
今日の高橋彩花のとんでもない行動を思い出し、表情が一気に曇り、顔に陰りが差した。
そして小さくため息をつき、「うまくいかなかった」と呟いた。
九条蓮は高橋美咲が成功の喜びを分かち合ってくれると思っていたが、逆に彼女は落ち込んだ様子で「うまくいかなかった」と伝えてきた。
一体何があったのか。
西園寺陸が自分の話を聞かず、高橋美咲に本来受けるべき投資をしなかったのか。
九条蓮の顔は険しくなり、眉間に深いしわを寄せて冷たく詰め寄った。「何があった?なぜうまくいかなかった?」
高橋美咲も隠すことはなかった。九条蓮は彼女と高橋彩花の関係を知っているので、説明するのも難しくなかった。
「もともと投資家が私たちに会ってくれて、投資してくれるはずだったの。新商品の発表もこれでうまくいくと思って、本当に嬉しかった。」
「でもまさか高橋彩花が東都キャピタルの関係者を知っていたなんて。彼女も今日来て、東都キャピタルは高橋彩花に投資するとその場で発表したの。私たちは無駄足だった。」
話し終えると、高橋美咲は無理に笑顔を作った。「大丈夫。他の投資会社がまだ私たちに興味を持ってくれるかもしれないし。」
高橋美咲はもともととても落ち込んでいて、このことをずっと胸の内にしまい込んでいた。
今、九条蓮に話したことで、少し肩の荷が下りたような気がした。
九条蓮自身も今は身動きが取れない状態だし、彼に助けを求めるつもりもなかったからこそ、気兼ねなく話せたのだ。
高橋美咲の言葉を聞いた九条蓮の表情は険しくなり、薄い唇を固く結んだ。
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