Chapter 782
美咲の方から会いに来る
さっきも九条蓮が食べ物を持っている様子は見なかったし、夕飯はもう食べたのか、それとも真壁直人たちが何か持ってきてくれるのか、あるいは外食するのかと考えを巡らせる。
そんなことを思いながら、高橋美咲は手早く何品か料理を作った。
芥子菜のスープと、二品の炒め物。見た目はシンプルだが、盛り付けはとてもきれいだ。
テーブルいっぱいの料理を見て少し迷ったが、結局部屋を出て九条蓮の部屋のインターホンを押しに行った。
…
その頃、九条蓮は九条凛と電話をしていた。
「美咲に何を言った?」九条蓮は低い声で尋ねる。「さっき帰ったとき、「九条家から追い出されたの?」って聞かれたんだ。」
「あはははは…」九条凛はその言葉を聞いて大笑いした。
しばらく笑い続けた後、九条凛は高橋美咲に言ったことを一言一句、九条蓮に伝えた。
それを聞いて、九条蓮はさっきの高橋美咲の表情の変化にようやく合点がいった。
やっぱり思った通りだ。高橋美咲は自分のせいで九条家から「追い出された」と思い込んで、だからあんなに申し訳なさそうにしていたのだ。
そう思うと、九条蓮は笑うべきか泣くべきか分からなくなった。
「兄さん、私が知ってる美咲なら、九条家から追い出されたって知ったら絶対に罪悪感を持つよ。そうしたらもうお互いに冷たくし合うこともなくなるし、もしかしたら美咲の方から会いに来るかも!」
九条凛は頭をフル回転させて、いろんな予想を並べ立てた。
その言葉が終わると同時に、インターホンが鳴った。
九条蓮はドアの方を見た。ここは高級マンションで管理も厳しいから、変な人が来るはずがない。
もしかして九条凛の予想が当たったのか?高橋美咲が自分から来てくれたのか?
九条蓮は電話を切り、ドアスコープから外を覗いた。
案の定、高橋美咲が不安そうに立っていた。
九条蓮の口元が満足げに緩み、ドアを開ける。「美咲、どうしたの?」
高橋美咲は九条蓮を見上げて、恥ずかしそうに小さな声で尋ねた。「あの…もう…夕飯は食べた?」
九条蓮の意味ありげな視線に気づき、美咲の表情は少し気まずくなる。
こんな聞き方、まるで食事に誘ってるみたいじゃないか。
高橋美咲は軽く咳払いをして、何でもないふうに言った。「実はさっき、ちょっと作りすぎちゃって。もしまだ食べてなかったら、捨てるのももったいないし、よかったら…」
美咲が言い終わる前に、九条蓮はもう部屋から出てきていた。
「ちょうどよかった。まだ食べてなくて、何にしようか考えてたところ。美咲の部屋で食べるよ。」そう言って、九条蓮は自然に高橋美咲の部屋へ向かった。
九条蓮が自分の部屋に入っていくのを見て、高橋美咲は完全に固まってしまった!
本当は料理をタッパーに詰めて九条蓮に持っていくつもりだったのに、一緒に食べるなんて考えてなかったのに!
その頃にはもう九条蓮は高橋美咲の部屋に入っていて、美咲も我に返って慌てて後を追った。
5分後、2人は並んでダイニングテーブルに座っていた。
高橋美咲は九条蓮にご飯をよそい、箸を手渡す。「食べよ。」
もう部屋に入ってしまったのだから、一緒に食べるくらいどうってことない。高橋美咲は気持ちを切り替え、九条蓮と一緒に落ち着いて食事を始めた。
だが、2人きりで向かい合って座ると、この静かな親密さにふと東京での思い出がよみがえる。
あの頃、九条蓮はまだ貧乏を装っていて、九条家の人間だとは知らなかったけれど、とても幸せだった。
九条蓮も少しぼんやりしていて、明らかに昔の甘い日々を思い出しているようだった。美咲を見つめる目がどんどん優しくなっていく。
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