Chapter 781
本当に九条家を追い出されたの?
ついに高橋美咲はエレベーターの壁にぴったり押し付けられ、もう逃げ場がなくなった。困った顔で「九条蓮、このエレベーターそんなに狭くないのに、なんでわざわざ私の方に寄ってくるの?」
九条蓮は目線を落として彼女を見つめた。「避けてるのか?」
「違うよ……」高橋美咲は気まずそうに答えた。自分の行動がバレていたとは思わず、その場で動けなくなった。
九条蓮はすぐに「投資家を探してるのか?」と尋ねた。
高橋美咲は驚いて九条蓮を見た。どうして自分が投資を探していることを知っているの?もしかして、ずっと自分のことを気にかけていたの?
高橋美咲が考えを巡らせているうちに、エレベーターは目的の階に到着し、九条蓮が先に降りた。
高橋美咲は我に返り、九条蓮の後ろについてエレベーターを出た。
二人は向かい合った部屋に住んでいる。高橋美咲は、法的にはまだ夫婦なのに、もうとっくに別居していることが皮肉に思えた。
九条蓮は自室の前で立ち止まり、すぐには中に入らなかった。高橋美咲は彼を見つめ、結局我慢できずに尋ねた。「九条凛が、あなたが九条家を追い出されたって言ってたけど、本当なの?」
高橋美咲の言葉を聞いた九条蓮の目が、ほんの少しだけ陰った。
彼は頭の回転が速い男だ。すぐに状況を理解した。
九条凛はずっと自分の味方だったから、高橋美咲の前でも色々と自分のことを良く言っていたのだろう。あるいは、何かイメージを作っていたのかもしれない。
彼は何も言わず沈黙したが、高橋美咲にはその沈黙が肯定に思えた。
高橋美咲の胸は重くなった。まさか九条蓮が、結局自分が一番望まなかった方向に進んでしまうとは思わなかった。あの時、自分から別居を切り出したのは、彼に九条家へ戻ってもっと広い世界を歩んでほしかったからだ。
高橋美咲はしばらく黙り込んだ。
長い葛藤の末、ようやく「じゃあ、今はどうしてるの?」と尋ねた。
「たぶん、あまり良くない。」
九条蓮は、時には優しい嘘も悪くないと思った。高橋美咲が自分が九条家を追い出されたと思い、同情してくれるなら、彼女の前で弱さを見せても構わない。
高橋美咲は大きくため息をつき、「本当は全部私のせいだよ。お祖父様にちゃんと説明すれば、きっと落ち着いたら戻してくれるよ。もう意地を張らないで。外にいるより、九条家にいた方がずっといいんだから。」
九条蓮は高橋美咲をまっすぐ見つめ、きっぱりと言った。「君のせいじゃない。僕の問題だ。君を幸せにできなかった。」
九条蓮の言葉を聞いて、高橋美咲は思わず涙がこぼれそうになった。
九条蓮は自分のために九条家を離れたのに、今も責めることなく、むしろ自分を気遣ってくれる。ふと、今朝彼が言った「君に会えるだけで十分だ」という言葉を思い出した。
高橋美咲は昔から情に流されやすい性格だ。九条蓮への想いもまだ残っているし、彼の状況を知ればなおさら胸が痛んだ。
九条蓮は高橋美咲の目に罪悪感が浮かぶのを見て、視線を揺らした。
彼は小さく笑って「じゃあ、先に部屋に戻って」と言った。
そう言って九条蓮はドアを開けて部屋に入った。
部屋のドアが閉まってから、高橋美咲はようやく我に返った。閉ざされたドアを見つめ、複雑な気持ちが渦巻く。
自分の部屋のドアを開けて中に入った。
さっき九条蓮と話したことが頭から離れず、ずっとぼんやりしたままだった。
最近、高橋美咲は自炊をしていた。冷蔵庫を開けたとき、またぼんやりと九条蓮のことを考えてしまう。
彼も昨日引っ越してきたばかりだから、きっと調味料や食材もあまり揃っていないだろう。
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