Chapter 775
向かいに越してきた新しい隣人
その日の夕方、仕事を終えた高橋美咲は、新しく借りたマンションへと帰ってきた。
前回の賃貸物件は高橋彩花に台無しにされてしまった。その後、不動産会社が新しい部屋を手配してくれ、前に見ていた部屋よりも条件が良く、しかも黒川メディカルセンターにも近い場所だった。
帰宅してドアを開けると、ちょうど向かいの部屋に引っ越し業者が荷物を運び込んでいるのが見えた。どうやら誰かが入居するようだ。
高橋美咲の目に驚きの色が浮かぶ。向かいの部屋はずっと空き部屋だったことを思い出した。部屋探しの時、不動産会社の担当者がどちらでも選べると言っていたのだ。
結局、今住んでいる部屋の方が日当たりが良かったので、こちら側を選んだのだった。
引っ越し業者ばかりで、入居者が男性か女性かは分からない。高橋美咲は驚きながらも何度かそちらを見やった。
だが、すぐに好奇心を抑えた。今どきはドアを閉めてしまえば、隣人が誰かなんて誰も気にしない。新しい住人が来たとしても、自分には関係のないことだ。
高橋美咲は踵を返し、ドアを閉めた。
彼女が部屋に入った直後、「ピンポーン」とエレベーターの扉が開き、背の高い人影が現れた。九条蓮だった。
その後ろから真壁直人が続き、恭しく言った。「九条さん、お荷物はすべてご用意できております。本日からご入居いただけます。」
まさか九条蓮が九条家本邸を出て、こんな狭い部屋に引っ越してくるとは。真壁直人は信じられない思いだった。
だが、高橋美咲がここにいるからこそ、九条蓮が妻を取り戻すためにここまでしているのだと思うと、不思議ではなくなった。
あの日、高橋美咲と険悪なまま別れたものの、九条蓮は長く離れていたくなかった。だからこそ、彼女の向かいに引っ越す決断をしたのだ。
真壁直人は部屋の中の様子を一瞥し、またもや困ったような表情を浮かべた。「九条さん、それでは私はこれで失礼します。何かあればご連絡ください。」
真壁直人が去った後、九条蓮の携帯が突然鳴った。
電話の相手は九条凛だった。
彼は画面をスワイプして応答した。「どうした?」
「蓮、お姉さんが最近投資家を探してるって聞いたけど、あの義妹があちこちで邪魔してるみたいで、全然うまくいってないんでしょ?もしかして、蓮が直接手を貸したの?」
あの日、九条蓮は自分は大丈夫だと伝え、九条家の大旦那様からも黙認を得ていたので、もう誰も彼のことに口出ししなくなった。
九条蓮は九条凛に、結婚式の準備に専念するよう言い、自分と高橋美咲のことには関わらないように伝えていた。だが、九条凛がじっとしていられるはずもなく、やはり彼の動向を知るとすぐに電話をかけてきたのだった。
案の定、九条蓮の最近の行動を知った九条凛は、いてもたってもいられず、すぐに情報を探りにきた。
九条凛の言葉を聞き、九条蓮の表情が少し和らぎ、低い声で「うん」と答えた。
「わあ!それってすごいじゃない!お姉さんが知ったら絶対感激するよ!」九条凛は興奮気味に叫び、まるで高橋美咲と九条蓮が仲直りする瞬間が目に浮かぶようだった。
九条蓮は口元にわずかに笑みを浮かべた。「彼女はまだ知らないし、知らせるつもりもない。」
「え?」九条凛は呆然とした。九条蓮は高橋美咲に知らせる気がないの?じゃあ、なぜそこまで?
「せっかくいいことしたんだから、すぐ伝えて感動させるのかと思ったのに……」と九条凛はぼそりとつぶやいた。
九条蓮の目が一瞬揺れた。「こういうことは、別に知らせる必要はない。」
You might also like




