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裏切った婚約者の叔父と、間違って結婚しました

Ch. 769 - あなたを巻き込みたくなかっただけ

Chapter 769

あなたを巻き込みたくなかっただけ

九条蓮の言葉を聞いた九条凛は、完全に呆然としてしまった。

これまでにも高橋美咲と九条蓮が喧嘩することはあったが、ここまで決定的な状況になったことはなかった。しかし今の九条蓮の口ぶりでは、高橋美咲の方が関係を断ち切ることを強く望んでいるように聞こえた。

九条凛は、こんな兄の姿を見たことがなかった。兄は昔からずっと優秀だった。優秀な人間でも人生で挫折を味わうものなのだろうか。

そして兄の挫折は、高橋美咲だった。

しばらくの間、九条凛はどうやって九条蓮を慰めればいいのか分からなかった。

だが突然、何かを思い出したように目を輝かせ、九条蓮に向かって言った。「蓮、私思うんだけど……美咲さん、本当は離婚したくないんじゃないかな!」

九条凛の言葉を聞いた九条蓮の無表情だった顔に、ようやくわずかな変化が現れた。

しかしすぐにまた元に戻り、ただ小さく笑って「無理に慰めなくていいよ。今の俺たちの関係じゃ、もう修復の余地なんてないって分かってるから」と言った。

「違うの!蓮、まず私の話を聞いて!」九条凛は九条蓮の隣にしゃがみ込み、彼を見つめながら言った。「美咲さんは、心の奥底ではまだ蓮のことを想ってる。それは間違いないよ。今回どうしても離婚にこだわったのは、きっと蓮のことを心配してるから。蓮を巻き込みたくなかっただけなんだよ!」

当事者よりも傍観者の方が物事をよく見ているものだ。その傍観者として、九条凛は高橋美咲が九条蓮をどう想っているか分かっていた。

そんなに簡単に九条蓮への想いを断ち切れるはずがない。

きっと何か理由があって、あの選択をしたに違いない!

九条蓮の眉がぎゅっと寄せられる。最初は九条凛の言葉を気にも留めていなかったが、彼女の分析を聞くうちに、心の中に小さな希望が芽生え始めた。

もしかしたら本当に九条凛の言う通りなのかもしれない――高橋美咲は本心では離婚を望んでいないのかもしれない。

九条凛は九条蓮を見つめて尋ねた。「蓮、よく思い出して。美咲さん、蓮に何て言ってた?」

高橋美咲の言葉の中に、きっと何かヒントが隠れているはずだと九条凛は確信していた。

九条蓮はため息をつき、かすれた声で言った。「一緒にいるのが疲れたって。もう疲れない相手を見つけたいって。黒川善と一緒になりたいって言ってた。」

「ふざけてる!」九条凛は思わず声を荒げた。そしてはっきりと言った。「最初に黒川善を見たとき、私たちは彼を恋敵だと思ったけど、美咲さんはそれでも蓮を選んだ。黒川善じゃなかった。なのに今さら、こんなに時間が経ってから急に黒川善を選ぶなんて、ありえないよ!」

「蓮、もう一度よく考えてみて!」

九条蓮の表情は真剣になり、目に少しずつ光が戻ってきた。

これまでずっと自分の痛みに囚われていて、その点には本当に気づいていなかった。

もし高橋美咲が黒川善を選んでいたなら、そもそも自分が関わる余地なんてなかったはずだ。だから高橋美咲があんなことを言って離婚を望んだのは、他に理由があったのかもしれない。

あの時、高橋美咲は「もしお祖父様が反対し続けたらどうするの?」と聞いてきた。

自分は「最後まで戦う」と答えた。するとその瞬間から高橋美咲は黙り込んでしまい、その後であんなことを言い出したのだった。

九条蓮の暗い表情が、徐々に和らいでいく。

つまり高橋美咲は、自分が九条家を離れることを望まず、身を引いたのだ。

九条蓮の胸に鋭く細い痛みが走り、高橋美咲の行動に対して怒りとやるせなさが入り混じった感情が込み上げてきた。