Chapter 766
朗報(続き)
森川茉莉が出て行った後、高橋美咲はデスクに座ったまま、ぼんやりとした。
九条蓮は今どうしているのだろう。
あの日、美咲は九条蓮に早く離婚手続きを進めてほしいと伝えたが、九条蓮からはまだ何の連絡もない。理由も分からない。
その日の仕事帰り、美咲が自宅のドアを開けた瞬間、突然誰かに手首を掴まれた。
驚いてとっさに相手を突き飛ばすと、見上げた先には見慣れた端正な顔があった。
九条蓮?
彼は美咲の手を払いのけ、そのまま部屋の中へと入っていった。突然現れた彼を見て、美咲は問いかけた。「九条蓮、どうしてここに?」
九条蓮は深い眼差しで美咲を見つめ、どこか複雑な表情を浮かべていた。
そんな彼の様子に、美咲はなぜか不安を覚えた。九条蓮が何か感情を抱えているような気がしてならなかった。
もしかして、彼が仮病を使っていた時に自分が言ったことを根に持って、今になって責めに来たのだろうか。
美咲がそんな考えを巡らせていると、九条蓮が口を開いた。「美咲、前に君が言ったこと、俺は納得していない。俺は君と一緒にいたい。たとえ祖父や祖母が反対しても、俺は諦めない。今日ここに来たのは、それを伝えたかったからだ。」
九条蓮の決意に満ちた表情を見て、美咲の目には一抹の困惑が浮かんだ。
しばらくして、美咲は九条蓮を見上げて尋ねた。「もしお祖父様がずっと反対し続けたら、どうするの?」
九条蓮は美咲を見つめ、きっぱりと言った。「最後まで戦う。」
その言葉を聞き、美咲は黙り込み、まつげを伏せた。
やっぱり、最も恐れていたことが起きてしまった。
以前も九条蓮は美咲のために九条家の他の家族と衝突し、絶縁まで考えたことがあった。
その後、偽装妊娠の件で関係が少し和らいだが、今や妊娠のことも明るみに出てしまった。もしまた九条蓮が九条家と対立すれば、今度こそ取り返しがつかない。
それだけは望んでいなかった。
美咲は九条蓮に九条家と争ってほしくなかったし、彼に九条家を離れてほしくもなかった。
九条蓮ほど優れた男性なら、頂点に立ち、誰からも憧れられる存在になるべきだ。そのためには、十分に強い家の後ろ盾が必要だ。
九条蓮は美咲の心の内など知る由もなく、優しく愛おしそうな表情で彼女を強く抱きしめた。「君が出て行った後、もう祖父にはっきり伝えた。お見合いなんてしたくない。俺が欲しいのは、君だけだ。」
「美咲、やり直そう。」
九条蓮はもともと高橋美咲のために、あらゆる障害を取り除く覚悟でいた。しかし、あの日美咲が口にした言葉が、彼を動揺させた。
今、彼は九条家を捨ててまで高橋美咲のもとへやって来て、やり直そうとしている。
高橋美咲は、九条蓮と九条家の大旦那様の間でどれほど激しい言い争いがあったか、考えるまでもなく想像できた。彼女は、九条蓮が自分のために家族に背を向けることを望んでいなかった。
もしそうなるなら、自分一人で痛みを抱えた方がいい。
冷静にすべてを考えた末、高橋美咲は手を伸ばして彼を押しのけ、低い声で言った。「九条蓮、私が言ったことは全部本当よ。やっぱり別れた方がいい。もともと私たちの間には大きな障害があったし、あなたが私を選んでくれたことは本当に嬉しいけど……」
高橋美咲の言葉を聞いた九条蓮の表情は、瞬時に暗くなった。
高橋美咲は重いため息をつき、残酷な言葉を口にした。「でも、もう疲れたの。あなたの家族から何度も干渉されるのはもう嫌。私だって、私を受け入れてくれる家族を見つけられる。そうすれば、こんな苦しみを味わわなくて済むから。」
高橋美咲が他の男を見つけると言ったこと以外、九条蓮の耳には何も入ってこなかった。
彼の顔色はみるみる険しくなり、全身から重苦しい空気が漂う。
「その男って誰だ?」九条蓮は暗い表情で問い詰めた。
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