Chapter 760
九条蓮の想い
九条家の大旦那様は唇を固く結び、しばらくしてからようやく口を開いた。「そうだ。もう無駄なことはやめろ。お前が何をしようと、あの女にお前の人生を邪魔させるつもりはない!」
「分かりました。」
九条蓮はただ静かに聞いていただけで、その一言だけを口にした。そして九条家の大旦那様を見上げる。「お祖父様、今まで育ててくださって、本当にありがとうございました……」
九条蓮の言葉を聞いた九条家の大旦那様は、胸がざわつき、嫌な予感を覚えた。
どういう意味だ?九条蓮は一体何をしようとしているのか?
「お祖父様、これまで僕のためにたくさんのことを考え、尽くしてくださったのは分かっています。将来、九条家を支える柱になってほしいと願ってくださったことも。でも、美咲がいない人生には、僕は何の意味も見いだせません。だから、きっとお祖父様をがっかりさせてしまうと思います。九条家には、まだ優秀な若い人材がたくさんいます。どうか、他の方をお考えください。」
九条家の大旦那様は、九条蓮が高橋美咲のために自分に食ってかかるのだと思っていた。
まさか、こんなことを言い出すとは思いもしなかった。
もう九条家を継ぐつもりはないのか?
九条家の大旦那様は激しい怒りと苛立ちを覚えた。高橋美咲という女が、ここまで九条蓮に深く影響を与え、家をも捨てさせるほどとは思ってもみなかった。
だが、九条家の若い世代の中で、九条蓮を超える者はいない。だからこそ、何度も彼を許してきたのだ。
その時、九条凛も意気消沈した様子で戻ってきた。
リビングのソファに座る九条家の大奥様を見つけて、不思議そうに尋ねる。「お祖母様、どうしてここに?兄さんとお祖父様は?」
「二人は部屋で話しているのよ。」九条家の大奥様は小さくため息をついた。今回のことを思い出すと、どうしようもない気持ちになる。
「はぁ……今回は本当にまずい気がする。兄さん、美咲さんと喧嘩したみたい。さっき美咲さんが、兄さんとはもうきっぱり別れるって言ってたし……私、兄さんのことが心配で仕方ないよ。」九条凛は暗い顔で、「このせいで兄さん、会社に三日も泊まり込んで仕事ばかりしてたし。もし本当に美咲さんが兄さんの元を去ったら……兄さん、何か取り返しのつかないことをしないかな……」と沈んだ声で言った。
九条家の大奥様の表情が曇る。立ち上がって「凛、一緒に来なさい!蓮に何かあったら絶対にいけないわ」と言った。
そう言いながら、二人は連れ立って九条蓮の部屋へ向かった。
ドアの前に着くと、ちょうど中から九条蓮と九条家の大旦那様の声が聞こえてきた。九条蓮が、九条家の大旦那様に他の後継者を選んでほしいと言っている。
九条凛の顔が一気に青ざめる。「嘘……兄さんの言い方、まるで遺言みたいじゃない。まさか本当に美咲さんのことで、何かしようとしてるんじゃ……」
九条凛はもう我慢できず、勢いよくドアを蹴り開けた。
「兄さん、絶対に変なことしちゃダメ!もし何かあったら、私たちどうしたらいいの!」
九条凛は駆け寄って九条蓮に抱きついた。「美咲さんを取り戻す方法だって、まだあるよ。こんなことで自暴自棄にならないで!」
九条蓮は九条凛を突き放し、淡々と言った。「別に自暴自棄になんてなってない。」
ただ、九条家の後継者の座を捨てて、自分の力で一からやり直そうとしているだけだ。それがどれほど困難な道か分かっていても。
「えっ?」九条凛は呆然とした。「美咲さんがいなくなって、兄さんもうダメかと思ったのに……」
九条家の大奥様は重いため息をつき、高橋美咲のせいでここまで事態がこじれてしまったことに、やるせなさと無力感を覚えていた。
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