Chapter 75
九条蓮、出張へ
ここ二日ほどは病院に経過観察で行き、医者から「回復は順調でギプスも外せる」と言われた。
手のギプスが外れ、高橋美咲の手は元通りになった。
片手だけで過ごす日々は本当に大変だった。食べるのも飲むのも、トイレも全部片手。中には左手でお尻を拭いて右手でご飯を食べる民族もいるらしい。
ここ数日間の憂鬱な気分も吹き飛び、高橋美咲の表情は明るくなった。
九条インターナショナルのオフィスでは、社員たちが桜井奈緒の周りに集まり、羨望のまなざしで次々と褒め言葉を口にしていた。
「高橋アシスタント、うらやましいです!」
「本当ですよ。九条マネージャーはあなたにすごく優しいですもん。」
「うちの部署、毎日お花で溢れてますよね。しかも毎日違う種類!」
女性たちのお世辞を聞きながら、桜井奈緒はますます得意げになり、口元の笑みを隠せなかった。
最近は何もかもが順調で、毎日がとても快適だった。
以前、九条悠真が高橋正人と鉢合わせしてから、彼女への気遣いがさらに増した。毎日様子を見に来てくれるし、サプライズも欠かさない。
九条悠真は本当に女性の心を掴むのが上手だった。細やかな気配りとサプライズの連続で、どんな女性でも一瞬で落ちてしまう。今や九条インターナショナルで「世界一幸せな女性」といえば桜井奈緒だと誰もが知っている。
桜井奈緒は満面の笑みで控えめに言った。「もう、からかわないでください。今度、悠真さんと婚約パーティーを開くので、みなさんぜひ来てくださいね。きっと面白いショーが見られますよ。」
「どんなショーですか?」と皆が興味津々で尋ねた。
「それは当日のお楽しみです。」桜井奈緒は意味深に微笑んだ。
……
高橋美咲が病院から自宅に戻ると、同じ市内から宅配便が届いていると電話があった。それはすでに九条インターナショナルの宅配ボックスに入っているという。
最近は何も買っていなかったので、誰が送ってきたのか全く心当たりがなかった。
不思議に思いながら九条インターナショナルに向かい、無事に荷物を受け取った。大きな箱で、中身は全く想像がつかなかった。
念のため家には持ち帰らず、そのまま九条インターナショナルの警備室で開けることにした。
箱を開けると、中にはドレスが入っていた。
そのとき、桜井奈緒が現れ、皮肉な笑みを浮かべて言った。「美咲、悠真さんと私の婚約パーティーがもうすぐあるでしょ。最近あなた節約しててドレス買うお金もないだろうから、私が用意してあげたの。これなら当日みっともなくならないでしょ?」
昨夜、桜井奈緒は再び柏木健人に連絡を取った。彼はすでに無事に逃げ切ったと言い、どこか安全な場所に着いたら高橋美咲の動画を送ると約束した。
桜井奈緒の心はようやく完全に落ち着いた。
婚約パーティーが終盤に差し掛かったら、高橋美咲にとって最大のサプライズを用意するつもりだった。
せっかくなら美しく着飾って来てほしい。そうでなければ、これまでの苦労が水の泡になってしまう。
高橋美咲は箱の中のドレスを一瞥した。有名な高級ブランドのものではあったが、何年も前に流行遅れになったデザインだった。
これを着て行ったら、きっと笑いものにされるだろう。
桜井奈緒の意図は隠す気すらない。本当に気分が悪くなる。
高橋美咲は目を細め、冷ややかな視線で桜井奈緒を見つめ、軽く言った。「ドレス送ってくれてありがとう。当日は絶対、最高に着飾って行くから!」
少し間を置いてから、鼻で笑いながら続けた。「でも、あなたの古臭いドレスなんて着ないわよ。私が綺麗に着飾ると、悠真さんが私に惹かれるのが怖いからドレスを送ったんでしょ?」
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