Chapter 709
さすがは義姉
九条会長が去ったあと、九条凛は高橋美咲に言った。「美咲さん、つらい思いをさせてごめんね。お祖父様はまだ二人のことを受け入れられないみたいだから、今はこうするしかないの。一緒に下へ行こう」
高橋美咲は少しもつらいとは思っていなかった。淡く笑って言った。「そんなに張り詰めなくていいよ。私のことで喧嘩しないで」
「こっそり楽をするつもりだったのに、これじゃ下へ行って挨拶回りをしなきゃね」
九条蓮と付き合い始めたときから、どんな困難が待ち受けているかはとうに分かっていた。こうなることも覚悟のうえだった。
高橋美咲の気楽な口調を聞いて、九条凛は、やっぱり美咲さんは優しすぎると思った。
さすがは私の義姉!
絶対に頑張って、お祖父様に高橋美咲を認めてもらわなければ!
九条凛は九条蓮を見て言った。「お兄ちゃん、今の目標は、お祖父様に美咲さんを認めてもらうことでしょ。お祖父様と喧嘩したら、これまでの努力が全部無駄になっちゃうよ。それに、大ごとになったらお祖母様も喜ばない。そうなったら、かえって損じゃない……」
九条凛の言葉を聞き、九条蓮も冷静さを取り戻した。
彼はうなずいて言った。「ああ、分かった」
高橋美咲と一緒に姿を見せるわけにはいかなかったため、九条蓮はしばらく彼女を慰めた。高橋美咲に何度も促されて、ようやく振り返り、階下へ向かった。
……
宴会場。
少し前、佐伯葉月は九条蓮と九条会長が相次いで席を外すのに気づいていた。どちらも顔色がよくなかったため、何か重大なことが起きたのではないかと、ぼんやり察していた。
二人とも、なぜあんな険しい顔で出ていったのだろう?
佐伯葉月が不思議に思っていると、九条会長が戻ってきた。その表情は、出ていったときと変わらず険しいままだった。
その後ろから九条蓮も戻ってきた。一方、九条蓮の顔色は先ほどほど悪くなかった。それがかえって不可解で、いったい何があったのか、周囲には見当もつかなかった。
疑問でいっぱいの佐伯葉月の目に、高橋美咲と九条凛が連れ立って宴会場へ入ってくる姿が映った。
高橋美咲を見た瞬間、彼女はしばらく固まってしまった。
今日はまだ高橋美咲を見かけていなかったので、九条家に入ることを許されなかったのだと思い、内心でほくそ笑んでいた。まさか、ここにいるなんて!
高橋美咲は今、いったいどういう立場なの?
気になって仕方がなかった佐伯葉月は、やがて九条芽衣の姿を見つけた。
目をわずかに動かし、九条芽衣のもとへ歩いていった。「芽衣さん、どうして高橋美咲がここにいるの? あんな身分の人が、どうしてこんな場所に来られるの? 招待客に知られたら、九条会長と九条家の大奥様は面目を失うのが怖くないのかしら?」
九条芽衣は先ほど佐伯葉月と少し話をして、この女が九条蓮を好きなのだと知っていた。
しかも佐伯葉月は、高橋美咲が高橋家の令嬢だということをまだ知らない。
それでもまだ、高橋美咲の身分を持ち出して騒ぎを起こそうとしている。
九条芽衣の目にかすかな冷笑が浮かんだ。なんて頭の悪い女なの!
心の中では佐伯葉月を見下していたが、九条芽衣は顔には出さなかった。ただ淡々と言った。「従兄が高橋美咲を好きだからよ。お祖母様の誕生日祝いという大切な宴なんだから、当然、彼女にも来てほしかったんでしょ」
佐伯葉月は納得したようにうなずき、言った。「それじゃ、このあと……九条蓮が彼女の立場を公に認めるってこと?」
高橋美咲と九条蓮はもう終わったものだと思っていたのに、予想に反して、まだ付き合っていた。
こんな大事な席で九条蓮が高橋美咲の立場を認めてしまえば、自分には二度と機会がなくなる。
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