Chapter 707
高橋美咲の立場を認める
宴会場では、九条蓮が九条会長とともに客の間を回っていた。
九条凛が慌てた様子で駆け寄ってきた。もともと蓮に高橋美咲のことを伝えたかったが、蓮はちょうどある会社の会長と話しており、九条会長もそばで見ている。凛は何も言い出せず、傍らで気を揉むことしかできなかった。
先ほどから少し上の空だった蓮は、凛がやってくるのを見ると、美咲の知らせがあるのだと分かった。そこで相手の会長に断りを入れた。
そして凛のもとへ向かった。
「どうだった? 美咲は見つかったか?」
凛は憂鬱そうに言った。「見つかった。美咲は今、二階にいるわ」
凛から美咲が二階にいると聞き、蓮のきつく寄っていた眉はようやくほどけ、目に浮かんでいた心配もすっかり消えた。
蓮は言った。「美咲は二階で何をしてる? どうしてまだ下りてこないんだ?」
凛は警戒するような顔で、九条会長のほうをこっそり見た。
そして不満を押し殺した声で言った。「美咲が下りたくないと思う? お祖父様が下りるなって言ったの。だから美咲は、ずっと一人で二階に閉じこもってた。お祖父様は本当にひどすぎるわ。いったい誰に恥をかかせたいの?」
先ほど二階で見た、一人きりで寂しそうにしていた美咲の姿を思い出した。自分たちは下で楽しそうに宴へ出ているというのに、
凛は美咲をかわいそうに思った。親友が気の毒で仕方がなかった。
凛の言葉を聞くと、蓮の顔はたちまち険しくなった。
それ以上何も言わず、大股で二階へ向かった。
蓮が二階へ行くのを見て、凛はほっと息をついた。
やはり兄は美咲を好きなのだ。少なくとも、美咲が理不尽な扱いを受けるのを放ってはおかなかった。親友を兄に紹介した甲斐があった。
そのとき九条会長も、蓮が二階へ向かうのに気づいた。おそらく蓮は、美咲が二階にいると知ったのだろう。九条会長は不機嫌そうに顔を曇らせた。
少し前、蓮は林社長をその場に残して立ち去ったため、何かが起きたのだと思っていた。
どうやら、あの女、美咲のためだったらしい。
九条会長は凛のもとへ歩み寄り、声を低くして不機嫌そうに問いただした。「どういうことだ? お前の兄は二階へ行って、あの高橋美咲を捜すつもりなのか?」
凛は九条会長を少し恐れていたが、それでも親友の美咲の味方だった。覚悟を決めて言った。「ええと……美咲を一人で二階にいさせるのは、あまりよくないんじゃない?」
「何がよくない!」九条会長は凛を睨みつけた。
先ほど蓮が皆の前に姿を現してから、大勢の人が彼を見つめ、一挙一動に注目していた。今、美咲とともに現れれば、必ず皆の噂になる。
そして誰かに尋ねられたら、何と答えるつもりなのか。あの女の立場を認めなければならなくなるではないか。
今はまだ、美咲と蓮のことを誰も知らない。九条会長の計画は、子供だけを残し、あとで母親を追い出すことだった。今、蓮を公の場で美咲と結びつけるわけにはいかない。
九条会長はひどく不満だった。美咲を一時的に受け入れたとはいえ、それは子供を産ませるためであって、九条家へ嫁がせるためではない。
考えれば考えるほど腹立たしくなった。九条会長は冷たく鼻を鳴らして言った。「初めから、あの女は二階にいて下りてこないのが一番だった。蓮が彼女の立場を公にするつもりなのか、見届けてやろう!」
そう言うと、九条会長は暗い顔で二階へ向かった。
蓮と九条会長が衝突するのではと恐れた凛は、すぐにあとを追った。
二階の部屋では、美咲がちょうどスマートフォンの電源を入れ、蓮にメッセージを送ろうとしていた。そのとき、蓮が入ってきた。
部屋に一人で座る美咲を見た蓮の目に、わずかな痛ましさが浮かんだ。
蓮は歩み寄り、優しく言った。「美咲、お祖父様にここへいろと言われたのか?」
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