Chapter 704
高橋美咲は妊娠していなかった(続き2)
今日は九条家の者たちが全員戻ってきていた。お祝いの赤い服に身を包んだ九条家の大奥様は、笑顔で客を迎えていた。
九条家の大旦那様は、今も美咲の立場を完全には認めていなかった。大勢の人を目にすると、その目はひどく暗くなった。
あとで美咲が姿を見せ、誰かに尋ねられたら、いったい何と答えればよいのか。
美咲の立場を公にすれば、結局、面目を失うのは九条家だ。
そう考えた九条家の大旦那様は、険しい顔つきになった。両手を背中で組み、二階の休憩室へ向かった。そのとき美咲は、ちょうど着替えて階下へ行こうとしていた。ドアを叩く音が聞こえ、誰かが客を迎えるよう急かしに来たのだと思った。
ところがドアを開けると、外に立っていたのは九条家の大旦那様だった。
大旦那様は暗い顔で美咲を見つめ、言った。「着替えるところか? 着替える必要はない。あとで階下へ来るな。二階にいなさい。何か食べたければ、使用人に運ばせればいい」
そう言い終えると、大旦那様は美咲の返事も待たず、身を翻して階下へ戻った。
美咲は着替えるつもりだったドレスを手にしたまま、九条家の大旦那様が去った方向を呆然と見つめていた。
皆の前に出るなと命じられるとは思っていなかった。自分は恥ずべき存在だと思われているのだろうか。
だが、九条のお祖父様が自分に不満を抱いていると知っている美咲は、自嘲するように笑うしかなかった。
どうせ大勢の客を相手にするのは疲れる。階下へ行かなくてよいのなら、それはそれで構わない。
少し落胆はしたが、美咲の気分はまだ悪くなく、それほど傷ついてもいなかった。テレビをつけ、腰を下ろして見始めた。
……
同じ頃、宴会場の雰囲気はますますにぎやかになっていた。
蓮はスーツに着替えていた。まさに天に愛された男だった。特注のスーツは引き締まった腰を包み、そのたくましさを際立たせ、全身から名家の御曹司らしい気品を漂わせていた。
蓮が素性を隠していた頃は、安物の粗末なスーツを着ても、息を呑むほど端正な顔立ちを隠しきれなかった。
今夜は本気で装ってきたため、姿を見せた瞬間、会場にいた大勢の視線を集めた。
その中には佐伯葉月もいた。
前回、高橋美咲に負けたことを、葉月はひどく不本意に思っていた。今回は九条家の大奥様の誕生日の宴を利用して、わざわざ機嫌を取りに来たのだ。さらに、九条家の大旦那様と大奥様とのつながりを利用し、九条蓮に近づきたいとも考えていた。
今の葉月にとって、唯一の誇りは自分の家柄だった。
何者でもない美咲のような女が、自分と比べられるはずがない。
葉月は九条芽衣が最近、海外から戻ったと知っていた。蓮のいとこなのだから、葉月が九条家へ嫁ぐために、きっと大きな助けになる。そこで宴に芽衣が姿を見せると、葉月はすぐに近づき、機嫌を取り始めた。
ほどなく二人は、昔からの友人のように打ち解けた。
葉月は褒め言葉をいくつも並べ、蓮をどれほど慕っているかも語った。芽衣は薄く笑うだけで、あの女、美咲への対処を手伝うと言った。
夜が更けていくなか、宴の会場に立つ蓮は、いまだに美咲の姿を見ていなかった。初めは、女性は化粧に少し時間がかかるものだと思っていた。だが、これほど長く待っても現れないとは思わなかった。
蓮は次第に、何かがおかしいと感じ始めた。
スマートフォンを取り出して美咲に電話をかけたが、電源が切れているという案内が流れた。
冷たい機械音を聞き、蓮の表情が険しくなった。
蓮は食事中の九条凛をつかまえた。そのとき凛は頬いっぱいに食べ物を詰め込んでおり、危うく驚いて喉に詰まらせるところだった。胸を叩き、急いで口の中のものを飲み込んだ。
落ち着いてから、凛は尋ねた。「お兄様、どうしたの?」
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