Chapter 70
本当にキスされた(続き)
九条蓮が冷たく厳しい口調で九条凛を呼ぶのを見て、高橋美咲は雇い主に逆らってクビになったら困ると心配になり、小声で「そんなに怖い顔しないで。凛は雇い主なんだから、もっと丁寧にして」と慌てて注意した。
そこでようやく九条蓮は、今の自分が九条家の専属運転手でしかないことを思い出す。
不満を抑え、「お嬢様」と九条凛に声をかけた。
九条凛は近づいてきたところで、その呼び方にびっくりして、思わず転びそうになる。
えっ?兄が自分を「お嬢様」って呼ぶなんて、面白すぎる。
小さい頃からずっと血筋で押さえつけられてきたのは自分の方で、いつも謝るのは自分ばかり。兄が自分に頭を下げるなんて一度もなかった。
今こそ仕返しのチャンス!
九条凛は得意げにふんっと鼻を鳴らし、偉そうに「もう一回言って」と命じる。
九条蓮の深い瞳がすっと彼女を見やる。怒っていなくても、自然と威圧感がある。
何も言わない九条蓮に、九条凛はすぐに気圧されてしまった。
あとで兄に仕返しされるのが怖くなり、それ以上は無理だと悟って「えっと、兄さん今日は忙しそうだし、早く迎えに行った方がいいよ」と慌てて話をそらした。
「行ってくる」九条蓮は背を向けて出ていった。
高橋美咲は気まずさを感じ、すぐに話題を変えて「凛、どうして朝早くからうちに来たの?」と尋ねた。
「ああ、美咲の体調が悪いって聞いたから様子を見に来たの」と九条凛は軽く答える。実は、九条蓮から連絡があり、高橋美咲に何かあったときのために見守ってほしいと頼まれていたのだった。
九条凛は少し呆れていた。生理くらいで、そんなに緊張することある?
でも、これってつまり、誰かがもう高橋美咲のことを気にし始めてるって証拠じゃない?
そう言いながら、九条凛はニヤリと笑った。「まさかタダでこんな面白いもの見られるとは思わなかったよ。もし私が来なかったら、二人とも火花散らしてそのままベッドインしてたんじゃない?」
まさか自分が持ってきた薬がこんなに効くとは思わなかった。飲ませたら、兄がもう女の子を追いかけるようになってるなんて。
「くだらないこと言ってないで、早く入ってよ。」高橋美咲は彼女を中に引き入れた。
二人は部屋に戻ってソファに座り、高橋美咲は九条凛に水を注いだ。
高橋美咲が片手でコップを持っているのを見て、九条凛は慌てて駆け寄り、コップを受け取って聞いた。「その手、いつ頃治りそう?あのクズと桜井奈緒の婚約パーティーで、そんな状態じゃ出られないよ。」
高橋美咲は「お医者さんが言うには筋肉の軽い捻挫だから、10日くらいで治るって。心配しないで。あの二人の婚約パーティーまでには絶対治すから。」と答えた。
それを聞いて、九条凛はかなり安心した様子だった。
何か思い出したように、「その時は、オーダーメイドのドレス作りに連れて行くからね。絶対みんなを圧倒するくらい綺麗にしてやる!」と張り切って言った。
高橋美咲は笑った。この頼もしい親友の方が自分よりもずっと気が急いている。
ふと九条蓮本人のことを思い出し、不安そうに尋ねた。「凛、あなたのお兄さん、いつ出張に行くの?もしまだいたら、会っちゃいそうで…」
「えっと…数日中だよ。もうすぐ出張に行くから!」九条凛は瞬きもせずに嘘をついた。
「それなら良かった!」高橋美咲はようやく心から安心した。
ふいに九条蓮に言われたことを思い出し、不思議そうに尋ねた。「凛、偽の九条蓮の妹さんに会ったことある?」
「ん?その妹がどうかしたの?」
九条凛は水を飲む手を止め、高橋美咲を気まずそうに見た。
もし高橋美咲が、妹本人が目の前にいると知ったら、どんな顔をするだろう。
「彼、自分は孤児で、妹だけが唯一の家族だって言ってた。それに妹は子供が5人もいる、すごく働き者の専業主婦だって。」
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