Chapter 693
黄河に飛び込んでも疑いは晴れない
車に乗り込んだあとも、九条蓮の顔色はひどく険しいままだった。
前で運転している真壁直人も、声を出そうとはしなかった。首をすくめ、自分まで怒りの矛先を向けられるのを恐れていた。
高橋美咲を迎えに来た時点で、九条蓮はすでに少し不機嫌だった。だが彼女に会ってからは、さらに機嫌が悪くなったようだ。何が起きたのか、真壁直人にはまったく分からなかった。
部下である自分にできるのは、できる限り存在感を消すことだけだった。
真壁直人にさえ九条蓮が怒っていると分かるのだから、すぐ隣に座っている高橋美咲が、彼の機嫌に気づかないはずがない。
彼女は慎重に九条蓮を一瞥し、できるだけ平静を装って尋ねた。「どうして来たの?」
九条蓮は淡々と答えた。「迎えに来た」
「……あの、私にこんなによくしてくれるなんて。本当に驚いたし、不意を突かれたわ」そう言ったあと、高橋美咲はひそかに彼の表情をうかがい続けた。
九条蓮の顔は、今もとても冷たくこわばっていた。つい先ほどの出来事が彼に大きな影響を与えたのは明らかだった。
高橋美咲は少し不満そうに言った。「九条悠真とは本当に偶然会っただけなの。どうして同じ便に乗っていたのかも知らないわ。大阪で会って、そのあとずっとしつこく付きまとわれて、離れてくれなかったの」
高橋美咲の説明を聞き、九条蓮の目にやるせなさが浮かんだ。
九条悠真をまともな相手だと思ったことは一度もない。それでも、彼と高橋美咲のことを考えれば不愉快だった。これも男の身勝手さ、自分の女に対する独占欲なのかもしれない。
高橋美咲を責めているわけではない。腹を立てている相手は、自分自身だった。
すべてを脇に置いて高橋美咲と一緒に行っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。
九条蓮はため息をついて言った。「ああ、分かってる。変なふうには考えてない」
九条蓮の表情を見る限り、その言葉にはあまり説得力がなかった。それでも高橋美咲は追及しなかった。彼は本当に不愉快なのかもしれないが、それでも自分を信じてくれているのだ。
そのとき、高橋美咲のスマートフォンがピコンと鳴った。
取り出して画面を見ると、九条凛からのメッセージだった。
九条凛:「美咲、今日大阪に戻るの?昨日、佐伯葉月って女がお兄ちゃんに何を送ってきたか知ってる?」
九条凛のメッセージを見て、高橋美咲は驚きの表情を浮かべた。
九条蓮からそっと画面を隠し、ひそかに九条凛へ返信した。「どういうこと?佐伯葉月が彼に何を送ったの?」
続いて九条凛は、佐伯葉月がしたことを一部始終、細かく高橋美咲に伝えた。
佐伯葉月が本当にそんなことをしたと知り、高橋美咲は怒りのあまり血を吐きそうになった。あの日、勝負に負けたあとで、あの女がこれほど卑劣な手を使うとは思わなかった。
帰り際に九条悠真と出くわしたこと自体、まったくの予想外だった。それどころか、彼が近づいてきて馴れ馴れしく手を出すなど、なおさら想像していなかった。
九条蓮はすでにあの写真を見ている。今日、空港まで迎えに来た彼が、九条悠真と一緒に現れた自分を目にすれば、誤解はいっそう深くなるだけではないだろうか。
その瞬間、高橋美咲は泣くに泣けない気分になった。
黄河に飛び込んでも、疑いを洗い流せそうにない!
高橋美咲は九条蓮の険しい横顔を見つめ、慎重に観察した。うん……ついさっき誤解していないと言ったばかりなのに、今の表情はどう見ても誤解しているようにしか見えない。
九条蓮がこれほど自分を大切にしてくれることは嬉しかったが、怒らせたくもなかった。
どうやら、あらゆる手を使って彼をなだめなければならないようだ。
高橋美咲は頬を少し赤らめ、九条蓮の耳元へ顔を寄せると、小さな声で囁いた。「九条蓮、もう何日も会ってなかったでしょう。今夜は私が『課題』を提出しないといけないんじゃない?」
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