Chapter 685
九条蓮の黒を白にする才能
美咲は冷たい笑みを浮かべた。「もし本当に理由なんてなかったって言ったら、信じる?」
どうして自分が九条芽衣にあんなことをされるのかなんて分かるはずもない。蓮ですら想像できなかっただろうし、もともと美咲をよく思っていない人たちならなおさらだ。だから誰も信じてくれなくなった。
「信じてるよ。君は僕の妻で、これから一生を共にする人だ。もちろん信じてる」
その言葉を聞いて、美咲の心が揺れた。
さっきまで感じていた傷つきも、この一言を待っていただけだったのかもしれない。蓮がそう言ってくれたことで、少し気持ちが楽になり、信じてもらえていると感じた。
張り詰めていたものが、ようやく緩んだ。
「でも、さっきは信じてくれなかった。私が九条芽衣を水に突き落としたと思ったんでしょ」
蓮はようやく美咲の気持ちの理由に気づき、慌てて低い声でなだめた。「あまりにも衝撃的だったからだよ。そんなふうに責めないでくれ。僕たちの間に、そんなに信頼がないわけじゃないだろ?」
美咲は少し呆れた。まあ、衝撃を受けたせいだと思っておこう。
「でも、それでも私を連れ戻して謝らせようとしたじゃない」
「ただ、ちゃんとその場で対処して、九条のお祖父様との関係がこれ以上悪くならないようにしたかっただけだ。君がどうしても帰ると言い張るから、一緒に出るしかなかった」
「……」美咲は言葉に詰まった。結局、全部自分のせいってこと?
蓮は本当に黒を白と言いくるめるのが得意だと、改めて感心するしかなかった。
突然、蓮が美咲を抱き上げたので、美咲は驚いて慌てて彼の首に腕を回した。「ちょっと、何するの?どこに連れていくの?」
「九条家本邸で、もし君が戻っていたら、まだ九条のお祖父様に説明できたかもしれない。でももうその機会はなくなった。後で真実が明らかになったときのために、今のうちに埋め合わせをしないと」
美咲は、何を埋め合わせるのか思い出した。
前回、九条凛がすでに妊娠していると嘘をついて、蓮と一緒にいさせようとした。でも実際はお腹に何もなくて、いつかその嘘がバレるかもしれない。
蓮は美咲をベッドに放り投げた。美咲は慌てて手で蓮の胸を押さえた。「待って、まだ聞きたいことがあるの」
蓮は上から美咲を見下ろし、優しいまなざしで低く言った。「うん、何を聞きたい?」
「九条悠真はどこに行ったの?」九条芽衣が美咲に手を出したとき、九条悠真のことを口にしていた。そのとき初めて、美咲は自分と悠真の間にあったことが、まるで前世の出来事のように感じた。
今になっても美咲が九条悠真のことを気にしていると知り、蓮の顔が少し曇った。不機嫌そうに「目の前に夫がいるのに、他の男のことを聞くのか?僕が機嫌を損ねるとは思わないの?」と言った。
美咲は蓮の表情から、誤解されていることに気づいた。
仕方なくため息をつき、蓮の頬にキスしてなだめた。「私と彼のことはもう過去の話だって分かってるでしょ。ただ、九条芽衣が私を水に突き落としたのは九条悠真と関係がありそうだったから、聞いてみたかっただけ」
美咲のなだめ方に、蓮もすっかり機嫌を直した。
だが九条悠真の話題になると、蓮は以前悠真がしたことを思い出し、目を細めた。「もう然るべき場所に送ったよ」
蓮は美咲を巻き込みたくないことがあった。悠真に対して使った手段は、容赦のないものだった。美咲がそんな冷たく暗い世界に足を踏み入れる必要はない。
美咲は黙り込んだ。
九条芽衣が言っていたことは本当だったらしい。九条悠真には本当に何かあったのだ。
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