Chapter 683
九条蓮は彼女を信じない(続き)
「お姉様、誤解よ。さっき水に突き落とされたから、つい言っちゃっただけで、悪気はなかったの。」
「黙りなさい。美咲さんがあなたを突き落とすわけないでしょ!」九条凛はきっぱり言い返した。
九条芽衣はまるで本当に悪意がないかのように、しおらしい表情を浮かべ、逆に九条凛が理不尽に見えてしまう。
「もういい、九条凛。これ以上口を挟むな!」九条家の大旦那様が九条凛を厳しく睨みつけた。
九条凛は悔しそうだったが、大旦那様は家長だ。そう言われては、従うしかなかった。
九条家の大旦那様は九条蓮を見て、重々しく言った。「高橋美咲が九条芽衣を水に突き落とした件、どう処分するつもりだ?このまま放っておけば、今後ますます増長するぞ。」
九条蓮の表情は険しくなった。ちょうどその時、階段から高橋美咲の声が響いた。
「私、押してなんかいません!」
皆が一斉に振り向くと、高橋美咲がゆっくりと階段を下りてきた。顔色はまだ少し青ざめており、声もかすれている。さっき水を飲んでむせたせいだろう。
九条芽衣は高橋美咲の姿を見た瞬間、目の奥に一瞬暗い光を宿した。
高橋美咲はゆっくりと九条芽衣の前まで歩み寄り、冷たい声で言った。「なぜ私があなたを水に突き落としたなんて濡れ衣を着せるのか分からないけど、私はやっていない。潔白は必ず証明される。これ以上言い訳するつもりもないし、どうやらこの食事も食べられそうにないわね。」
そう言い終えると、高橋美咲は背を向けてその場を去った。
「お義姉さん……」九条凛が慌てて高橋美咲を呼び止めたが、高橋美咲は一度も振り返らなかった。
九条蓮は高橋美咲が出ていくのを見ると、すぐに立ち上がって彼女の後を追った。
九条家の大旦那様は、九条蓮が高橋美咲のことをそこまで気にかけて追いかけるとは思ってもみなかったので、激しい口調で叱った。「九条蓮、どこへ行くんだ!すぐに戻りなさい!」
だが返ってきたのは、九条蓮がドアを閉める音だけだった。
高橋美咲は家を出ると、足早に外へ向かった。ここへは九条蓮に連れて来られたのだから、帰るには歩いて大通りまで出てタクシーを拾うしかない。
九条蓮が自分を信じてくれなかったことを思い出し、高橋美咲は胸が締め付けられるような思いだった。
九条芽衣がどんなに嘘をついても構わないが、九条蓮に信じてもらえなかったことが何よりも辛かった。
「美咲。」九条蓮が追いつき、高橋美咲の手を掴んだ。
「何のためについてくるの?もうすぐ夕食が始まるんだから、戻ったら?」高橋美咲は冷たく言った。
九条蓮はため息をつき、「怒らないで。まず一緒に戻って、俺に任せてくれないか?」と優しく言った。
「どうやって任せるの?あなたは私が九条芽衣を突き落としたと信じてる。戻ったら罰を受けるだけよ。私はやってもいないことを絶対に認めない。」
九条蓮は眉をひそめた。高橋美咲が自分を信じてくれないとは思ってもみなかった。
高橋美咲の目には、九条蓮がこの件をきちんと処理できるとは思われていないのだろうか。
確かに、九条蓮は高橋美咲が九条芽衣に突き落とされたと言った時は信じなかったが、それでも高橋美咲が罰せられるのを黙って見ているつもりはなかった。
そして、今ここで出て行ってしまえば、まるで自分がやったと認めたようなものだ。それでは九条のお祖父様の怒りをさらに買い、二人の関係も悪化するだけだから、九条蓮は高橋美咲に一緒に戻ってきちんと説明してほしかったのだ。
まさか高橋美咲がここまで怒って、拒絶するとは思っていなかった。
目を赤くしながらそう言い放つと、高橋美咲は九条蓮の手を振りほどき、そのまま背を向けて歩き出した。
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