Chapter 682
九条蓮は彼女を信じない
部屋の空気が一気に張り詰めた。
高橋美咲は心の中で憤りを感じていた。九条蓮は自分を全く信じてくれない。九条芽衣が明らかに自分を傷つけようとしたのに、彼女の肩を持つなんて。やっぱり九条芽衣が九条家の一員で、従姉妹だから庇うの?
じゃあ私は?
私は九条蓮の妻なのに、少しも信じてくれないの?
高橋美咲が怒っているのを見て、九条蓮は少し困ったようにため息をつき、「美咲、目が覚めたばかりなんだから、あまり興奮しないで。ちゃんと休んで」と言った。
コンコン、とドアをノックする音がした。九条蓮は入口に目を向けて、「何だ?」と声をかけた。
「九条様、お祖父様があなたと高橋さんをお呼びです。」
九条蓮は「わかった」と返事をした。
外の声は徐々に遠ざかっていった。九条蓮は再び高橋美咲を見やった。彼女の表情から、今はとても不安定な状態だと感じた。このまま大旦那様の前に出れば、何か揉め事になるかもしれない。
何があっても、自分が対応すればいい。
九条蓮は優しく「美咲、ここで休んでて。僕がちゃんとお祖父様と話してくるから」と言った。
そう言って立ち上がった。
ドアが閉まる音がして、ようやく高橋美咲は我に返った。
考えれば考えるほど、何かがおかしい気がした。さっき九条芽衣はなぜあんなことをしたのか。「厄病神」だなんて言っていたけど、九条悠真のために私を陥れたわけじゃないの?本当に訳がわからない。
九条蓮が大旦那様のもとへ行ってしまい、何も知らないまま部屋にいるのは、あまりにも不利だった。
いろいろ考えた末、高橋美咲はやはり我慢できず、布団をはねのけてベッドから降りた。
……
リビングには九条家の面々が揃い、重苦しい空気が漂っていた。
九条芽衣はすでに着替えており、今は隅でしおらしく座っていた。顔には悲しげな表情を浮かべ、守ってあげたくなるほど哀れだった。
足音が響き、九条蓮が落ち着いた足取りで近づいてきた。
「お祖父様。」空いている席に腰を下ろした。
九条家の大旦那様は鋭い目で九条蓮を見据えた。「蓮、高橋美咲という女は母親そっくりの厄介者だ。九条家に災いをもたらすために来たようなものだぞ。家の者に手を出すなんて、いい度胸だ!」
「お祖父様、何か誤解があるのでは?」九条蓮は眉をひそめた。
九条家本邸で高橋美咲が九条芽衣にそんなことをするはずがないと、彼は信じていた。
九条芽衣はすすり泣きながら、「蓮お兄様、私が言ってることは本当なの。高橋美咲さんに水に突き落とされたの。まさか九条悠真のことであんなに強く反応するなんて思わなかった……。まだ彼のこと、忘れられないのかしら?」と訴えた。
ちょうど高橋美咲が階段に差しかかったとき、九条芽衣の言葉が耳に入り、足が止まった。
まさか九条芽衣がそんなことを言うなんて。もし心配で今降りてこなかったら、こんな話は聞けなかっただろう。
やっぱり九条芽衣は善良な従姉妹なんかじゃなく、腹黒い白百合だった!
最初、九条芽衣が親しげに接してきたときは、素直な親戚だと思っていたのに、まさか裏の顔があったなんて。
九条芽衣、本当にやるわね!
九条芽衣の言葉で、リビングの空気は一層気まずく重くなった。もともと高橋美咲と九条悠真の過去を知る者は少なかった。九条悠真は遊び人で女性関係も多く、高橋美咲のような元カノは特に目立つ存在ではなかった。
だが九条芽衣がそれを持ち出したことで、高橋美咲と九条悠真の過去が皆の前で明るみに出てしまった。
九条蓮と九条悠真の立場を考えれば、どう見ても気まずい空気だった。
九条凛は九条芽衣が過去を蒸し返したのに腹を立て、すぐに立ち上がった。「九条芽衣、高橋美咲と九条悠真のことなんてもう過去の話よ。今はお義姉さんなんだから、わざわざ蒸し返す必要ないでしょ?」
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