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裏切った婚約者の叔父と、間違って結婚しました

Ch. 662 - 母のお見舞いに

Chapter 662

母のお見舞いに

今の高橋美咲は微笑んでいるが、その瞳には悲しみが広がっていた。

黒川善は目を細めて「どうしたの?何かあった?お母さんのことで何か分かったの?」と尋ねた。

その言葉に高橋美咲は驚いて黒川善を見上げた。まさか彼が知っているとは思わなかった。

「お母さんと九条蓮のこと、知ってるの?」

高橋美咲の言葉を聞いた瞬間、黒川善は彼女が本当に知ってしまったことを悟った。ということは、九条蓮と何かあったのか?

黒川善の胸に熱い期待が一気に広がった。

もし高橋美咲と九条蓮が決裂したのなら、自分にもチャンスが巡ってくるかもしれない。

高橋美咲に問い詰められ、黒川善は気まずそうに「えっと…叔父さんと叔母さんが話してるのを偶然聞いちゃって、それで知ったんだ」と答えた。

その時から、いつかこの問題が表面化することを予感していた。

そして今、ついにその時が来たのだ。

九条蓮に抑え込まれていた黒川善の想いは、再び勢いよく蘇り、高橋美咲を見る目も熱を帯びていった。

その頃、九条凛はちょうど九条ホールディングスに到着したところだった。

オフィスのドアを開けて中に入ると、すぐに兄がデスクに座っているのが目に入った。彼は昨日と同じように落ち着いた表情で、淡々と仕事をこなしていた。

九条凛はデスクを軽く叩いて「お兄ちゃん、まだここにいるの?さっき美咲からLINEが来たんだけど、今日お母さんのお見舞いに行くって。あそこは黒川善の病院だよ。もう美咲はお兄ちゃんと離婚して独り身なんだから、あの男と何か起きるかもよ!」と言った。

そう言いながら、九条凛はまだ兄を十分に煽れていない気がしていた。

さらに真剣な口調で続けた。「昨日も美咲を慰めようと電話したけど、全然悲しそうじゃなかったよ。もしかしたらすぐに他の男とくっついちゃうかも!」

九条蓮の眉がぎゅっと寄った。

それは美咲が何も感じていないと聞いたからなのか、それとも美咲が黒川善と会っていると聞いたからなのか、どちらとも分からなかった。

九条凛がさらに煽ろうとしたその時、九条蓮は突然コートを手に立ち上がった。九条凛は慌てて後を追い「お兄ちゃん、どこ行くの?」と困惑して尋ねた。

「妻を取り戻しに行く。」

「えっ?」九条凛は一瞬固まったが、すぐに笑い出した。兄は全く動じていないと思っていたのに、実は焦っていたのだ。ついにじっとしていられなくなったらしい。

九条蓮はすでにオフィスを出ていた。九条凛も慌てて後を追いかけた。「お兄ちゃん、待ってよ!」

病院近くのレストランにて。

高橋美咲と黒川善はボックス席で食事をしていた。母の世話をしてくれたお礼にと、高橋美咲が食事をご馳走することにしたのだ。黒川善も美咲と二人きりで食事できるのが嬉しくて、すぐにOKした。

二人はレストランのボックス席で向かい合って座っていた。

そのすぐ近くに、変装した九条凛と九条蓮がいることには全く気付いていなかった。

「お兄ちゃん、黒川善の美咲を見る目、もう溢れんばかりの好意だよ。はぁ…」九条凛は美咲たちの方を見ながら、声を潜めて九条蓮の耳元で囁いた。

九条蓮も視線を向けると、黒川善が高橋美咲を見つめている。その目はまさに男が女を見るそれだった。

実際、黒川善は決して悪い相手ではない。家柄も高橋美咲と釣り合っている。この機会に本気でアプローチされたら、決して不可能ではない。

「黒川善と美咲、意外とお似合いかも。幼なじみだし、家同士の揉め事もなさそう。黒川善のお母さんも美咲のこと好きそうだし。お兄ちゃん、今回の恋敵は手強いよ。」

九条凛はしみじみと呟いたが、その直後、九条蓮の鋭い視線に気付き、すぐに口をつぐんでしまった。