Chapter 659
離婚協議書を用意せよ
九条凛が不思議そうに九条蓮を見ていると、九条蓮は言った。「そんなに暇なら、ここにいないで高橋美咲のそばにいてやれ。気を紛らわせてやってくれ。」
実のところ、九条凛は高橋美咲に会うのが少し怖かった。自分が二人を引き合わせたせいで九条蓮と高橋美咲が付き合うことになり、今や二人が別れることになってしまったから、多少なりとも後ろめたさを感じていた。しかし、どうすることもできず、ただ高橋美咲を避けるしかなかった。
だが九条蓮にそう言われて、九条凛も考え直し、やはりこのまま問題を避け続けるわけにはいかないと思った。
「うん、じゃあ行くわ。」九条凛は来たばかりで、まだ一息つく間もなく九条蓮に追い出される形になり、不満そうに立ち上がって部屋を出ていった。
九条凛が出ていくと、九条蓮の目つきは一気に暗くなった。
二人は別れることになっているが、それは本当の別れではない。ただ九条のお祖父様に二人が別れたと思わせるためのものだった。九条蓮はどうしても高橋美咲を手放すことができなかった。二人の根本的な問題は、彼の四叔父と高橋美咲の母親のことだった。
その問題さえ解決できれば、二人の問題も自然と解決するはずだ。
九条蓮はスマートフォンを手に取り、真壁直人に電話をかけた。
電話がつながると、九条蓮は言った。「真壁直人、すぐに離婚協議書を用意してくれ。」
真壁直人はこんな電話が来るとは思ってもみなかった。あまりの衝撃に心臓が止まりそうになった。
「九条様、そ、それは本気で…?」
「ああ。」九条蓮は一拍置いてから言った。「俺名義の不動産は全部彼女に渡してくれ。」
……
ここで九条蓮がしたことは、すべて九条家の大旦那様の目の届くところで行われていた。
真壁直人が離婚協議書を用意したという話は、すぐに九条家の大旦那様の耳にも入った。
九条家本邸では、使用人が入ってきて九条家の大旦那様に報告した。「旦那様、長男様がすでに離婚協議書を高橋美咲様に届けさせました。」
「ほう?」九条家の大旦那様は横目で使用人を見やり、目に一層の厳しさを宿した。
今回九条蓮がこれほどまでに決断が早かったことは、九条家の大旦那様にとっても意外だった。
以前、九条蓮と高橋美咲の交際に反対したとき、九条蓮はあの女のことで自分と大喧嘩になりかけたものだ。なのに今は一体どういうことなのか。
しばらく沈黙した後、九条家の大旦那様は尋ねた。「本当に離婚協議書を送ったのか、間違いないのか?」
「はい、旦那様。」
使用人の言葉を聞いて、九条家の大旦那様はようやく安心した。
もしかすると、九条蓮は一時の感情に流されていただけだったのかもしれない。その熱が冷めれば、何事もなくなるだろう。この機会に高橋美咲ときっぱり別れさせるのも悪くない。
使用人が出ていった後、九条家の大奥様はため息をついた。
今回の件の進め方は、まるで恋人同士を引き裂く悪役のようだった。この問題さえなければ、高橋美咲のことは本当に気に入っていたのに。
九条家の大旦那様は大奥様がため息をつくのを見て、睨みつけるように鼻を鳴らした。「なんだ、ため息なんかついて。九条久遠を殺した女の娘を家に嫁がせたいのか?」
「何言ってるの、九条久遠は死んでないでしょ?」大奥様は苛立ったように大旦那様を睨み返した。
自分の失言に気づいた九条家の大旦那様は、途端に口をつぐんだ。
九条久遠は今、療養所でまったく反応がない状態だ。生きているとはいえ、まるで生ける屍のようなものだ。自分は間違ったことを言っただろうか。ただの言い間違いなのに、あの婆さんはあんなに怖い顔をして…。まったくもう!
九条家の大旦那様は鼻を鳴らし、立ち上がって書斎へ向かいながらつぶやいた。「もう高橋美咲と佐伯葉月の競争も続ける必要はないな。今回は佐伯葉月の圧勝だ。九条蓮は高橋美咲と離婚して、佐伯葉月と結婚すればいい。今度こそ、あいつの好き勝手にはさせん!」
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