Chapter 647
年の功は伊達じゃない
ようやく出てきたものの、九条蓮の表情はどこか険しい。
高橋美咲は、高橋正人が九条蓮に何か言ったのではないかと疑わずにはいられなかった。
「九条蓮、今なら教えてくれる?さっきお父さん、何て言ってたの?」
九条蓮の整った顔が曇ったが、何も言わなかった。
しばらくして、ようやく「何も言われてない。ただ、お前のことを大事にしてくれって」とだけ口にした。
それは嘘だった。
実際には、高橋正人は色々と話していた。
さっきの光景が九条蓮の脳裏に蘇る。
ソファに座った高橋正人は、厳しい表情で「美咲の母親のことを知っているか?」と尋ねてきた。
「いいえ」
高橋正人はふっと笑い、どこか寂しげに「やっぱり知らなかったか。もし知っていたら、美咲と一緒になるはずがない」と呟いた。
「昔、東京でお前に会って、美咲の相手だと知った時、二人の交際には反対だった。理由は他にない…美咲の母親の件だけだ…」
高橋正人の表情はさらに重くなり、「若い頃、私は美咲の母親をうっかり裏切ってしまった。それから関係が変わり、家に帰ることも少なくなった。そのせいで美咲の母親は塞ぎ込みがちになった。そんな時、ある人物が現れて…」と語った。
一度言葉を切った高橋正人は、九条蓮を見上げてゆっくりと「その人物は、九条久遠だった」と言った。
普段は冷静な九条蓮の顔が一瞬で険しくなり、表情が強張った。
九条久遠は、彼の四叔父だ。
その後のことは、高橋正人が続けなくても九条蓮には分かっていた。
二人は一緒になり、ある外出の際、同時に交通事故に遭った。その後、九条久遠は植物状態になり、高橋美咲の母親も同じく植物状態となった。
その後、九条家の大旦那様は激怒した。全てはあの女のせいだと信じ、九条家の大奥様にもまるで命を差し出せと言わんばかりの勢いで責め立てた。
九条蓮は、九条久遠が女性と一緒に事故に遭ったことは知っていたが、九条家ではその話は一切語られず、手がかりもなかった。やがて皆の記憶からも薄れていった。
まさか、その女性が高橋美咲の母親だったとは——
どうりで、これまで九条家と高橋家はどちらも大阪の名家でありながら、一度も接点を持たなかったわけだ。理由はこれだったのだ。
九条家の大旦那様はもともと高橋美咲のことを好いていなかった。九条蓮は、祖父が九条絵美里を傷つけた女性をどれほど憎んでいるかをよく知っている。そして、その女性が高橋美咲の母親だった。二重の因縁が重なって、これから先、二人はどうなってしまうのか。
九条蓮は思い出から我に返り、ハンドルを強く握りしめた。
高橋美咲と離れたくない。もしこれが二人の間に立ちはだかる壁なら、高橋美咲には絶対に知られたくなかった。
九条蓮は表情を崩さず、すべての感情を心の奥底に押し込めた。そして微笑みながら言った。「どうした?そんなに君のお父さんが僕に何かするんじゃないかって心配なのか?」
「もちろんよ。前に変なこと言われたし、今もそうかもしれないじゃない。」
あの時、高橋正人は九条蓮と付き合うなと言っていた。
九条蓮は淡々と答えた。「いや、何も言われなかったよ。」
高橋美咲は不思議そうな顔をした。
なぜか心の奥で、九条蓮が嘘をついている気がしてならなかった。でも彼が今は話したくないのなら、無理に聞いても仕方がない。ただ、心の中で疑問が残るだけだった。
突然、九条蓮の携帯が鳴った。
取り出して画面を見ると、九条家の大旦那様からの電話だった。九条蓮の心はさらに重く沈んだ。
来るべきものは、いずれ来る。
スワイプして通話を取る。「お祖父様。」
You might also like




