Chapter 63
九条インターナショナルはプロポーズの場所じゃない
でも、来てくれてちょうどよかった。悠真が自分にプロポーズする瞬間を見せつけられる。
高橋美咲、きっと嫉妬で気が狂いそうよね?
でも、嫉妬したって無駄。悠真はもう私のものなんだから!
桜井奈緒の視線は高橋美咲の包帯を巻いた手に落ち、口元に意地悪な笑みが浮かんだ。そして高橋美咲に声をかけた。「美咲も来てたの?写真撮ってくれない?」
スマホを取り出し、高橋美咲の無傷の手に無理やり押し付けた。
「今日は特別な日だから、記念に残したいの。美咲は親友でしょ?断らないよね?」
高橋美咲が断る間もなく、桜井奈緒は悠真の元へ戻っていった。
高橋美咲は片手でスマホを持った。画面は真っ黒で、ロックがかかったままだった。
口元が引きつる。桜井奈緒はわざとやっているのだ。怪我しているのを知っていて写真を頼み、しかもロックも解除していない。
自分がキレるのを見たいのか?
ここで感情を爆発させれば、周囲の視線は「嫉妬でおかしくなった女」になるだろう。桜井奈緒も本当に手が込んでいる。
少し離れたところから桜井奈緒が急かした。「美咲、何してるの?早く写真撮ってよ。」
勝ち誇った笑みを浮かべ、高橋美咲を見下すような目つきだった。
高橋美咲は深く息を吸い込んだ。もう見栄なんてどうでもいい、スマホを叩きつけてやろうかと思った、その時——突然、上から強烈な水流が降り注いだ!
バシャッ!
その水流は見事な命中率で桜井奈緒と九条悠真に直撃し、二人は一瞬でずぶ濡れになり、見るも無残な姿になった。
雨が降ってる?
いや、違う。全然濡れていない。高橋美咲が顔を上げると、九条インターナショナルの外壁三階にゴンドラが設置されていて、何人かの作業員がメンテナンスをしていた。そのうちの一人が長い高圧ホースを持っている。
真壁直人が下で指示を出していた。その「雨」は、作業員のミスが原因だったのだ!
「きゃっ!」桜井奈緒が悲鳴を上げた。
一瞬のうちに、桜井奈緒と九条悠真の髪は水でぺったりと張り付き、雫が滴っている。服もびしょ濡れで、見るも無残な姿だった。
高橋美咲は思わず笑ってしまった。今日は特別な日だって桜井奈緒が言ってなかった?ちゃんと記念に残したいって言ってなかった?
こんなにみじめな姿、もちろん写真に残してあげなきゃ!
スマホを取り出し、カメラモードに切り替えて、桜井奈緒と九条悠真にレンズを向ける。
カシャ。二人の姿をしっかりと収めた。
真壁直人が申し訳なさそうな顔で駆け寄り、九条悠真に何度も頭を下げた。「九条マネージャー、本当に申し訳ありません。作業員がどうしてこんなミスをしたのか……すぐに厳重に処分します!」
九条悠真も桜井奈緒も、怒りで顔が歪んでいた。
「あいつら、豚なの?どうしたらそんなミスするのよ!今すぐクビにして!」
「はい、はい、すぐに。」真壁直人は即答した。
どうせ臨時雇いの作業員で、正式な社員じゃない。真壁直人は一切ためらわず、作業員たちを連れてその場を離れた。
びしょ濡れの九条悠真と桜井奈緒だけが残された。
ようやく高橋美咲がゆっくりと歩み寄り、桜井奈緒のスマホを返しながら、のんびりと言った。「あなたのスマホ、使い方よくわからなかったけど、さっき写真撮ってあげたよ。送ろうか?」
「あっ!」高橋美咲が突然声を上げた。
意味ありげに微笑んで、「そうだ、私たち親友じゃなかったね。もうブロックしてるし、写真は私のタイムラインに載せといたから。欲しかったら自分で取りに来て。お礼はいいから。」
そう言い残して、高橋美咲はその場を去った。
桜井奈緒は怒りで震え、拳を握りしめて顔を歪めた。
絶対に高橋美咲に仕返ししてやる!
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