Chapter 622
思いがけない電話
美咲は高橋良子の向かいに腰を下ろした。コーヒーを一杯注文し、良子を見て「叔母さん、今日は何のご用で東京まで?」と尋ねた。
高橋良子の顔に嘲るような表情が浮かび、冷たく言い放った。「あんた、私に何の用かなんてよく聞けるわね?数日後が何の日か、もう忘れたの?」
良子の言葉を聞いても、美咲の好奇心は増すばかりだった。本当に何の日なのか思い出せなかった。
高橋家を離れてからというもの、美咲は高橋家のことに関心を持たなくなり、何の日かなんてなおさら覚えていなかった。
美咲の直感は、きっと高橋家で何かが起きたから良子が自分に会いに来たのだと告げていた。
叔母は、いつも自分の利益が絡む時だけこうして動くタイプだった。
高橋良子は、もったいぶることなく口を開いた。
高橋美咲が不思議そうな顔をしているのを見ると、鼻で笑って言った。「あなた、仕事が忙しすぎて大事なことまで忘れてるのね。もうすぐお祖父様のお誕生日よ。まさか実家に帰るつもりがないなんて言わないでしょうね?お祖父様、ずっとあなたのことを話題にしてるのよ。帰らなかったら親不孝もいいところよ!」
お祖父様の誕生日が近いのか?
高橋美咲は一瞬固まった。危うく忘れかけていた。思いがけず過去のことや高橋家の人々のことが頭をよぎる。
実のところ、高橋家の大旦那様は特別自分に優しかったわけではない。むしろ、実力のある人間を好んでいた。あの頃の自分は何も実績を見せていなかったし、高橋彩花のようにお祖父様に取り入るのも上手くなかった。お祖父様が可愛がっていたのは、どちらかといえば高橋彩花だった。
今になって高橋良子が「お祖父様があなたを恋しがっている」なんて言うのは、なんだか滑稽に思えた。
つまり、高橋良子がわざわざ自分を訪ねてきた理由はこの件だったのだ。大阪からわざわざ来るとは思っていなかった。
こんな些細な用事だけで高橋良子が動くはずがない。つまり、今の高橋良子はかなり追い詰められていて、高橋家の膠着状態を打破したいのだろう。
高橋美咲は口元に微笑みを浮かべて尋ねた。「叔母さん、今は高橋グループは父が継いでるの?それに高橋彩花が会社で高橋莉良を徹底的に追い詰めて、もう居場所もないってこと?」
その言葉を聞いた瞬間、高橋良子の表情が一変した。高橋美咲の指摘が図星だったのだ。
高橋良子は嫁いだ身とはいえ、夫の家はごく普通の家庭で、ほとんど婿養子のようなものだった。子どもたちも高橋姓を名乗っている。結婚後も家族全員で高橋グループに勤め続けていた。
彼女には高橋莉良という娘がいて、高橋彩花と同い年だった。
考えてみれば、高橋家には娘が多い。でも幸いなことに、高橋家の大旦那様は男系相続にこだわるような古い考えはなかった。大事なのは、誰が高橋家をより良くできるかだった。
高橋美咲の記憶が正しければ、今の高橋グループはほぼ父の手中にあり、他の叔父たちは父の下で働くしかなかった。
今回高橋良子が自分を訪ねてきたのは、きっと自分を利用して、火中の栗を拾わせ、高橋正人と戦わせたいのだろう。
高橋美咲は心の中で冷笑した。
高橋良子は自分を買いかぶりすぎているのでは?
かつては高橋彩花と高橋莉良が手を組み、何度も自分を押さえつけてきた。
まさか今になってこんな展開になるとは思わなかった。やはりこの世に永遠の味方などいないのだ。
すぐに高橋良子は感情を抑え込んだ。
そして微笑んで言った。「美咲、わざわざあなたに知らせに来たのは、お祖父様に顔を見せる時期だと思ったからよ。今は会社もお父様が仕切っているし、あなたも知っているでしょう?お父様が大旦那様に認められたのは、お母様が持参金を持って嫁いだからよ。」
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