Chapter 615
九条蓮の思惑
九条蓮には、九条家の大旦那様がすでに少しずつ態度を軟化させているのが分かっていた。あともう一押しすれば、高橋美咲のことを認めてくれるはずだ。
彼は高橋美咲に、東京で一生を終えるのではなく、九条家の大旦那様の目に入ってほしいと願っていた。
九条蓮の迷いを見て、高橋美咲は黙り込んだ。
彼女は九条家の大旦那様側の事情を九条蓮ほど理解していない。ただ、彼が迷うのは佐伯葉月を辞めさせるのが惜しいからだとしか思えず、抑えていた怒りが一気にこみ上げてきた。
「なんで今はダメなの?彼女のことが好きなの?」
それ以外に理由なんて思いつかなかった。
九条蓮は困ったようにため息をついた。「美咲、考えすぎだよ。本当に佐伯葉月に気持ちがあるなら、君の居場所なんてないだろ?あまり思い詰めないでくれ。」
高橋美咲は怒りとモヤモヤでいっぱいだった。全然考えすぎなんかじゃない!
高橋美咲が一人で不機嫌になっているのを見て、九条蓮は慌てて彼女を腕の中に引き寄せ、低い声で言った。「部署をもっと離しておくよ。そうすれば顔を合わせることもなくなる。それでいい?」
今、ニアとメゾン・ヴェルヌは九条インターナショナルの隣同士のフロアにある。高橋美咲と佐伯葉月はどうしても顔を合わせることになるし、それが本当にストレスになっていた。
これが今の九条蓮にできる最善の策だった。
高橋美咲は不満げに「分かった。あなたに任せる」と言った。
本当はまだ佐伯葉月のことが少し気になっていたが、九条蓮がここまで譲歩してくれたのだから、これ以上しつこく言えばただの我儘になってしまう。
高橋美咲は車のドアを開けて降り、九条蓮を車内に残した。
彼女の後ろ姿を見送りながら、九条蓮は明らかに彼女が不機嫌なのを感じ取り、眉をひそめて長い間運転席で考え込んでいた。
夕食時、九条凛は高橋美咲が浮かない顔をしているのに気づき、目を光らせて名探偵モードに入った。
絶対に高橋美咲と九条蓮の間で何かあった!
もともと九条蓮の正体が明かされた後は、高橋美咲も喧嘩せず、みんな幸せそうだったのに、どれだけ時間が経ったというのにもうケンカ?
九条凛はすぐに九条家のお父様と九条家のお母様に目配せした。
九条凛「お兄ちゃんとお義姉さん、何かあったの?」
九条家のお母様「あなたが知らないなら、お父様と私が分かるわけないでしょ?」
九条家のお母様の困惑した表情を見て、九条凛は内心ため息をついた。
彼女は黙ってご飯をかき込み、食後にしっかり二人から事情を聞き出そうと心に決めた。
夕食後、九条凛はもう我慢できず、消化のためだと口実を作ってすぐに高橋美咲を庭に連れ出した。高橋美咲は何も疑わず、頭を冷やしたい気持ちもあったので、九条凛と一緒に庭へ向かった。
九条家の庭はとても広大で、まるでゴルフ場のような青々とした芝生が何エーカーも広がっていた。中央には精巧な人工の岩庭と人工湖があり、夜の明かりの下、湖面にはさざ波がきらめき、清々しく心地よい雰囲気だった。
その光景を見つめながら、高橋美咲の目は少し遠くを見ていた。
今日の九条蓮との出来事がふと頭をよぎる。実は怒っているわけではなかった。ただ、あの時の九条蓮の最初の反応が、彼の本心なのだと感じてしまったのだ。
高橋美咲は九条蓮に失望していた。
高橋美咲がぼんやりしているのを見て、九条凛は軽く咳払いをして尋ねた。「美咲、お兄ちゃんとケンカしたの?」
高橋美咲は我に返り、無理に笑顔を作った。「してないよ。」
「もう、隠さなくていいって。私、美咲の心の中の虫みたいなもんだから、顔見れば何考えてるかすぐ分かるんだよ!隠さないでよ。私たち、姉妹みたいなもんでしょ?義姉妹だし!」
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