Chapter 610
九条蓮の正体、露見す(続き)
九条凛が必死に自分のせいにしようとするのを見て、高橋美咲は淡々と言った。「最初は知らなかったとしても、途中からは絶対に知ってたはず。私はずっと誤解してたのに、わざと隠してたんでしょ。」
そう言って高橋美咲は九条凛を見上げた。「主犯があなたなら、共犯は彼よ!」
九条凛は苦しそうな顔をした。やっぱり、この話は長引けば長引くほど悪くなると分かっていた。今、美咲が怒っているのかどうかも分からない。まさか兄と離婚するつもりじゃ……
九条蓮は九条凛に目をやり、「お前と両親は外に出ててくれ」と言った。
九条蓮の言葉を聞き、九条凛は心配そうに立ち上がった。不安だったが、これ以上口を挟めることではなかった。
結局、九条凛はしぶしぶ立ち上がり、部屋を出ていった。ドアも気を利かせて静かに閉めた。
部屋のドアが閉まると、九条凛は耳をドアに当てた。中から高橋美咲の小さな怒った声が聞こえてきた。
「離して!」
「抱きしめないで……」
「キスも禁止だから……」
その後、部屋の中からは何の音もしなくなった。
九条凛は目を動かしながら、「もしかして、美咲ってそんなに怒ってないのかも?」とつぶやいた。
部屋の中で、高橋美咲は手を伸ばして九条蓮を押しのけた。
九条蓮は高橋美咲を無理に抱きしめ続けることはせず、彼女の隣に腰を下ろして真剣な眼差しで言った。「ごめん、美咲。本当に君に嘘をついていた。何度も打ち明けようと思ったけど、君が知ったらきっと僕を責めるんじゃないかって怖かったんだ。」
「君が僕のもとを離れてしまうんじゃないかと、それが怖くてずっと隠していた。騙すつもりじゃなかったんだ、美咲。許してくれる?これ以外に、君に隠していることは何もない。」
九条蓮は誠実な口調で、高橋美咲をじっと見つめていた。
彼は怯え、不安そうで、今までにないほど落ち着きを失っていた。高橋美咲がこんなに九条蓮の緊張した顔を見るのは初めてだった。
これまでの九条蓮は、いつも冷静沈着で余裕のある印象だった。そんな彼が、身分を隠していたことで自分が怒るのを恐れて、こんなふうになるなんて初めてだった。
こんなふうに見つめられたら、誰だって責める気持ちなんて起きない。ましてや、もともと怒っていなかった高橋美咲ならなおさらだ。
ただ、まだ気持ちの整理がつかず、すぐには受け入れられなかっただけだった。
それに、さっきの仮定の質問に対する九条蓮の答えは完璧だった。そんな彼を責めるなんてできるはずがない。
部屋の空気が静まり返った。高橋美咲は何も言わなかったが、その様子がかえって九条蓮をさらに不安にさせた。
もう我慢できなくなった九条蓮は、一歩踏み出して高橋美咲を抱きしめ、そっと囁いた。「美咲、あの時、九条凛が僕たちを区役所に連れて行って婚姻届を出させたんだ。あの頃は君のことを知らなかったし、祖父に結婚を管理されたくなくて、九条凛の頼みを受け入れた…」
「でも、君と一緒に過ごすうちに、君の素晴らしさに気づいて、だんだん惹かれていった。だからこそ、君に嘘をついていたことがバレるのが怖くて、本当の自分を明かせなかったんだ…」
「美咲、たとえ嘘をついて身分を隠していたとしても、僕は僕だ。君の戸籍上の夫だ。叱ってもいいし、殴ってもいい。でも、君だけは絶対に離れないでくれ。」
今度は高橋美咲も九条蓮を押しのけなかった。そのまま彼に抱きしめられていた。
九条蓮が自分の気持ちを語る間、高橋美咲の脳裏には、二人で過ごした日々のささやかな出来事が浮かんでいた。最初は本当に、九条蓮のことを九条家の専属運転手だと思っていた。
あの存在感と容姿で、普通の人のはずがないのに。
自分は本当に鈍かった。少しも疑わず、彼の正体を問いただすこともなかった。
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