Chapter 604
拉致
金城茉莉奈に殴られた痕が岩瀬一真の顔に残っており、腫れぼったくて少しみすぼらしい様子だった。
彼は手を伸ばして車のドアを開けると、小さなナイフを高橋美咲の首元に押し当てた。
「降りろ!」
高橋美咲は下手に動くことができず、必死に岩瀬一真の感情をなだめようと、「話し合いましょう。まだ興奮しないで」と声をかけた。
「はっ、興奮するなだと?」岩瀬一真は歯を食いしばりながら睨みつけ、「柳小路がニュースを揉み消してくれるって言ったのに、結局金城茉莉奈にバレた!そのせいで金城家から追い出されて、地位も全部失った。もう何も残ってない。全部お前たちのせいだ!」
高橋美咲は心の中で思いきり目をむいた。
どう考えても自分たちのせいじゃない。柳小路が原因なのは明らかだし、高橋美咲は最初から被害者だ。岩瀬一真よりもよっぽど無実だ。
だが今の岩瀬一真は情緒不安定で、これ以上刺激するわけにはいかない。
「わかった、言う通りにするから。まずナイフを下ろして」
岩瀬一真は手をぐっと押し下げ、「うるさい!さっさと車に乗れ!」と怒鳴った。
高橋美咲は岩瀬一真に無理やり車に押し込まれ、そのまま彼の車は現場から走り去った。
岩瀬一真の車に拉致された高橋美咲は、後部座席に座らされたまま、岩瀬一真がずっと自分を見張っていて携帯を取り出す隙も与えられなかった。まさに完全に孤立無援の状態だった。
窓の外を見渡すと、両側の景色がどんどん遠ざかり、進むほどに寂れた場所になっていく。
高橋美咲は胸騒ぎを覚えた。
車のドアは完全にロックされていて、今飛び降りるのは不可能だ。
岩瀬一真が車を止めるまで待って、その時に逃げるしかない。
岩瀬一真はそのまま車を走らせ、高橋美咲を人けのない荒れ地まで連れて行った。そこには古びた廃墟のような建物がいくつかあるだけだった。車を止めると、彼は高橋美咲を無理やり中へ引きずり込んだ。
高橋美咲は周囲を見回し、ここが軽井沢の田舎だと気づいた。そして岩瀬一真がどこへ連れて行こうとしているのか、だいたい察しがついた。
岩瀬一真は以前から彼女の美貌に執着していた。今、彼が高橋美咲に復讐する一番手っ取り早い方法は、彼女を汚すことだろう。
岩瀬一真に引きずられて入った部屋は、壁が剥げ落ちた空き部屋で、中にはボロボロの藁の敷物が敷かれていた。まるで浮浪者が住んでいたような場所だ。もしここで本当に岩瀬一真に襲われたら……
そう思った瞬間、高橋美咲の顔色は真っ青になり、心は底まで沈んだ。
高橋美咲は険しい表情で「もし私に何かしたら、絶対に許さない。今すぐここを出て大阪に戻れば、今回のことはなかったことにして、罰も与えない」と言い放った。
大阪に戻るという言葉を聞いた瞬間、岩瀬一真の目が一気に血走った。
彼はすでに金城家から追い出され、大阪でも金城家が「誰も雇うな」と言いふらしている。
大阪に戻る?
今さら大阪に戻れるはずがない!
高橋美咲の言葉は、岩瀬一真をさらに逆上させた。彼は凶悪な表情を浮かべ、高橋美咲を力任せに部屋の中へ突き飛ばした。
同時刻、九条蓮と真壁直人はすでに羽田空港に到着していた。二人は到着ロビーの送迎エリアで、高橋美咲が迎えに来るのを待っていた。
九条蓮は白いシャツに黒のスラックスというシンプルな装いだったが、そのモノトーンの組み合わせが彼の際立った容姿を一層引き立て、通りすがりの人々が驚きの視線を何度も送っていた。
真壁直人は九条蓮の隣で首を伸ばし、人混みの中をきょろきょろと見回していた。しばらく見ていたが、高橋美咲の姿はどこにも見当たらなかった。
彼は思わず尋ねた。「九条さん、高橋さんが迎えに来てくれるっておっしゃってませんでした?まだ姿が見えませんけど、何かあったんでしょうか?」
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