Chapter 603
やはり家柄だけが、少し物足りない
佐伯葉月はすぐにNiaでそのニュースを知った。
彼女の表情は暗くなり、握りしめた拳が今にも砕けそうなほどだった。
高橋美咲はうまく逃げ切り、柳小路という駒も完全に潰れてしまった。大事な手駒を失ったのだ。
その時、佐伯葉月の携帯が鳴った。取り出して画面を見ると、柳小路からの着信だった。どうせ助けを求めてくるのだろうと最初は出る気がなかったが、何かを思いついて通話ボタンをスワイプした。
「もしもし。」
「葉月、助けて!岩瀬一真に家を突き止められたの。あのデブ女、金城茉莉奈にボコボコにされて、今度は家からも追い出されて、私に八つ当たりしに来てるの。お願い、助けて!」
佐伯葉月の目がさらに暗くなった。「今、あんたの家にいるの?」
「うん、今まさにドアの外に……ああ……」柳小路の震える声が聞こえ、ドアを叩く不気味な音まで響いてきた。
柳小路の言葉を聞きながら、佐伯葉月は何かを考え込むような表情を浮かべた。
岩瀬一真は今、散々な目に遭っている。柳小路に当たるのは、ただの八つ当たりだ。でも、その怒りを高橋美咲に向けさせたら、どれだけ痛快だろう。
佐伯葉月は口元に冷たい笑みを浮かべた。
携帯を持ったまま、静かに言った。「若瑛、いい方法があるわ。」
…
「高橋マネージャー、高橋マネージャー!柳小路がクビになりました!」高橋美咲が会社に着くと、森川茉莉がこのビッグニュースを伝えてきた。柳小路を心底嫌っていた森川茉莉は、まるで大きな悪が成敗されたかのように、顔を輝かせていた。
それを聞いた高橋美咲は、すぐに社内通達を開いて確認した。
通達には、柳小路が解雇された理由も明記されていた。
さらに、下には柳小路についてのコメントがいくつも並び、その中の一つが高橋美咲の目に留まった。
ある社員:「高橋美咲って、九条社長と何か関係あるの?なんかいつも誰かに守られてる気がするんだけど。」
その言葉を見て、高橋美咲は考え込んだ。
あの日、岩瀬一真がやられた時、金城茉莉奈が「九条社長が乗り込んできた」と確かに言っていた。あの日はあまりにも混乱していて、何があったのか詳しく聞く暇もなかった。今また、周囲の人たちがそれを思い出させてくれる。でも、今日は九条蓮が出張から戻る日だし、空港に迎えに行く予定だから、その時に直接聞けばいい。
だが、まだすべてが終わったわけではなかった。
「森川茉莉、私はこれから夫を迎えに空港へ行くから、しばらくメゾン・ヴェルヌをお願いね。何かあったらすぐ連絡して。」
高橋美咲は森川茉莉にいくつか指示を出し、荷物を持って車で出発した。
その車は、普段九条蓮が使っているものだった。彼が出張に行っている間、高橋美咲が運転していたのだ。今日は九条蓮が帰ってくるので、迎えに行くつもりだった。
高橋美咲は空港へ向かって車を走らせた。
その途中、突然一台の車が並走し始め、ある区間に差し掛かると、どんどん自分の車線に寄ってきた。高橋美咲は眉をひそめ、何かがおかしいと感じ始めた。
彼女は慌ててブレーキを踏み、車を路肩に寄せて停めた。
本当は助けを呼ぼうとしたが、携帯を取り出す間もなく、誰かが車の窓ガラスを叩き割った。
鋭いガラスの割れる音が響き、高橋美咲の心臓が激しく締め付けられた。
振り向くと、見覚えのある人影が車の外に立っていた。それは……岩瀬一真だった!
昨日、彼は金城茉莉奈と揉めて、高橋美咲が警備員に命じて彼を追い出した。その後は気にも留めていなかったのに、まさか岩瀬一真が自分を探してくるとは思いもしなかった。
「何するつもりなの!」
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