Chapter 588
自分の女に手を出すなんて(続き)
仕事終わり、相沢紫苑は本来、森川茉莉と一緒に岩瀬一真を探しに行くつもりだった。
だが、ふと思い出した。水城圭介にご飯を届ける約束があったのだ。
もう何日も食事を届けているので、きっと彼もそれに慣れてしまっているだろう。もし今日岩瀬一真を探しに行ったら、いつ戻れるか分からないし、水城圭介が空腹になってしまうかもしれない。
「森川茉莉、ごめん、岩瀬一真を探しに行くのは少し後にしてもいい?急に大事な用事を思い出しちゃって。」
「何の用事?」
相沢紫苑は、以前みんなで食事したときに水城圭介からご飯を届けてほしいと頼まれた経緯を、森川茉莉にすべて話した。
気がつけば、相沢紫苑はもう何度も水城圭介に食事を届けていた。彼女は責任感が強いので、一度始めたことは途中で投げ出さないタイプだ。しかし高橋美咲の件も今はとても大事なので、森川茉莉の意見も聞いてみたかった。
「大丈夫だよ。まずご飯を届けてから、そのあと行こう。」
森川茉莉は迷わず同意した。
同じ会社の同僚だし、そこまで冷たくはできない。ただ、森川茉莉はまさかあんな場面を見ることになるとは思ってもいなかった…。
2人は市場で食材を買い、相沢紫苑の家に向かった。協力して料理を作り、それを持って病院へ向かった。
数日間の治療で、水城圭介はかなり回復していた。しかも最近は特に機嫌が良く、ほとんど元通りだった。
すでにベッドから起きて歩くこともできるし、医者からも特に問題がなければ退院して自宅療養してもいいと言われていた。
ただ、水城圭介は最近、相沢紫苑の手料理にすっかりハマってしまい、なかなか退院しようとしなかった。毎日、相沢紫苑がご飯を持ってきてくれるのを楽しみにしていた。自分でもどうしてこうなったのか分からない。
本来なら、そろそろ相沢紫苑が食事を届けに来る時間のはずだったが、彼女はまだ現れなかった。
水城圭介は長い間待った末、ようやく相沢紫苑の姿を見かけたが、森川茉莉も一緒だった。
森川茉莉と相沢紫苑が病院に到着し、水城圭介を見つけると、二人とも目を丸くし、森川茉莉はまるで雷に打たれたような顔をした。
「こ、九条社長じゃないの?」
「なんでここにいるの?」
水城圭介も森川茉莉にはとても馴染みがあった。今の彼女の怯えた様子を見て、すぐに自分が誰か気づかれたことを悟った。
事故直後は顔が腫れ上がっていて、誰だか判別できなかったが、今はほとんど回復しており、森川茉莉は一目で彼だと分かったのだ。
水城圭介は気まずそうに頭をかき、しばらく何を言えばいいか分からなかった。
その時、相沢紫苑が森川茉莉の様子がおかしいことに気づき、驚いて尋ねた。「森川さん、どうしたの?」
森川茉莉は我に返り、慌てて笑顔を作った。「い、いえ、なんでもありません。」
相沢紫苑が食事を置いてトイレに行くと、森川茉莉は病室に一人きりになった。九条社長と二人きりだと思うと、極度に緊張し、できるだけ端に座って存在感を消そうとした。
森川茉莉の動揺ぶりを見て、水城圭介は彼女が自分の正体を勘違いしていることに気づいた。
彼は手にしていた箸を置き、「森川茉莉さん」と声をかけた。
「はい、九条社長!」森川茉莉はすぐに背筋を伸ばし、敬語で返事をした。
水城圭介「……」
もう隠す必要もないと感じた水城圭介は、重いため息をつき、「実は、僕は九条社長じゃないんです」と打ち明けた。
前回、九条蓮からももう身分を隠す必要はないと言われていたので、水城圭介は素直に認めることにした。
ずっと九条社長のふりをし続けるのも限界があるし、罪悪感でいっぱいだったのだ。
「あ、そうなんですか……えっ!?」森川茉莉は反射的にうなずいたが、すぐに我に返った。
彼女は目を見開き、水城圭介を凝視した。「な、なんて言いました!?」
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