Chapter 586
九条蓮と別れる決意
高橋美咲は車の中でぼんやりと座りながら、今日九条蓮の両親が自分たちに会いに来たことをまだ考えていた。
もしかしたら九条蓮自身も、両親が来ていたことを知らなかったのかもしれない。
そもそも九条家の大旦那様には最初から好かれていなかったし、今回のことでますます嫌われるに違いない。そうなれば、すべての重圧が九条蓮にのしかかる。
考えれば考えるほど高橋美咲の気持ちは沈み、拳を握りしめて決意した。
もともと自分たちは縁がなかったのかもしれない。ここまで一緒にいられただけでも十分で、そろそろ自分から動くべきだと感じていた。
車が一戸建ての駐車場に入ると、さっきまで湧き上がっていた高橋美咲の勇気は徐々に薄れていった。
家に着いたら、ちゃんと伝えようと心に決めた。
2人はエレベーターで上階へ向かった。部屋に入った瞬間、高橋美咲は深く息を吸い込み、小さな声で「話があるの」と切り出した。
九条蓮はゆっくりと手に持っていた鍵を置き、窮屈そうで不安げな高橋美咲に視線を向けた。「ん?」
九条蓮はすでに高橋美咲が心配し、緊張していることに気づいていた。それが今回の件によるものだということも分かっていた。
高橋美咲と岩瀬一真の件については、すでに調査を始めていた。
自分は高橋美咲を信じているが、他の人はそうではないかもしれない。誰もが納得する確かな証拠を示さなければ、高橋美咲の汚名は晴れない。
ただ、この間ずっと高橋美咲は理不尽な思いをしてきた。
九条蓮は「何を話したいんだ?」と尋ねた。
高橋美咲は少し言葉を選び、「九条蓮、今回のこと、あなたももう聞いてるよね?この件はあなたにとって影響が大きすぎるから、しばらく距離を置いた方がいいと思うの」と言った。
九条蓮は高橋美咲の言葉を聞いて、眉をひそめた。
「距離を置く?」
高橋美咲が別のことを言うのかと思っていたが、まさかこんな話になるとは思わなかった。
こんな小さなことで自分と離れようとするなんて、高橋美咲は自分をどう思っているのか。
九条蓮の表情が曇るのを見て、高橋美咲もこれが彼にとって酷なことだと分かっていたが、他に方法がなかった。
重いため息をつき、どうしようもない気持ちで「この件の影響は大きすぎる。今のところ、いい解決策も思いつかない。九条インターナショナルでも、私のことであなたが影響を受けるのは避けられないから、いっそ距離を置いた方があなたのためになると思うの」と言った。
「それが本当に俺のためになるって、どうして分かる?せめて俺の意見も聞いてくれないのか?」
九条蓮は思わず叱りつけたくなった。こんな小さなことで距離を置こうとし、それを自分のためだなんて言うなんて。
高橋美咲の目には涙がにじんだ。この件は本当に彼にとって不公平だ。
でも、九条蓮が自分のせいで周囲から指をさされ、噂されるのを見るのは耐えられなかった。
もし九条社長が、九条インターナショナルのイメージを損ねたと判断して彼を解雇したらどうしよう。
九条悠真だって、九条インターナショナルのことで以前解雇されたことがあったじゃないか。
高橋美咲が何も言えずにいると、九条蓮は鋭い表情で「君はこれが俺のためだと思ってるかもしれないけど、俺たちは夫婦だ。何があっても一緒に乗り越える。もし将来俺に何かあって、君を巻き込みたくないからって距離を置こうとしたら、それが正しいと思うのか?」と言った。
高橋美咲は黙り込んだまま、何も言えなかった。
自分の立場で考えれば、確かに九条蓮に何かあったとき、彼に突き放されるのは嫌だと思う。
一緒に困難を乗り越えられるはずだ。
今日は自分が軽率だった。九条蓮の両親が会いに来たことや、まだ解決策が見つからないことに焦って、こんな行動に出てしまったのだ。
「ごめんなさい。私が悪かった。こんなことであなたと距離を置こうとしたのは間違いだった。」
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