Chapter 58
高橋正人との再会
窓が下がると、時の流れに磨かれた端正な顔立ちが現れた。高橋正人はスーツ姿で、控えめながらも品のある佇まい。後部座席に身を預け、年輪を刻んだ鋭い眼差しで高橋美咲をじっと見つめていた。
高橋美咲に怒られてはいたが、高橋正人は彼女のことをずっと気にかけており、今の仕事が塗装であることも把握していた。
高橋美咲は幼い頃から絵を描くのが好きで、特に上手だった。
目の前の細身の姿を見つめながら、高橋正人の脳裏には、幼い高橋美咲が絵を掲げて満面の笑みで褒めてほしいとせがんでいた姿が浮かんだ。
あっという間に、高橋美咲はもう大人になっていた。
「高橋さん、今日の午後は大阪に戻るフライトですよ。美咲さんに会いに降りますか?」運転席の林健人が尋ねた。
高橋正人は首を横に振った。「いや、ここから見ているだけで十分だ。顔を合わせるたびに彼女は嬉しそうじゃない。わざわざ前に出て嫌われることもないだろう。」
そう言って、高橋正人はただ静かに高橋美咲を見つめ続け、その瞳には深い愛情と罪悪感が滲んでいた。
高橋美咲が九条インターナショナルの建物内にトイレを借りに入ったのを見届けると、ようやく視線を外し、林健人に「行こう」と告げた。
ちょうど窓を上げ始めたその時、不意に驚いた声が響いた。「高橋さん?」
高橋正人が振り向くと、車窓の外に九条悠真が立っていた。
その顔には驚きと喜びが入り混じり、明らかに興奮している様子だった。
高橋正人はしばらく考えたが、この人物に会った記憶がなかった。
「君は?」と困惑しながら尋ねた。
九条悠真は、高橋正人が自分を知らないことを承知していたので、一歩前に出て自己紹介した。「初めまして、高橋さん。僕は九条悠真と申します。美咲さんの恋人です。」
高橋正人は、以前高橋美咲の身辺を調べさせた際、交際相手が九条悠真という名前だったことを思い出した。
その目は、義理の息子候補を見極める父親のそれとなり、九条悠真をじっと見つめた。
九条悠真は見た目は悪くなかったが、目が泳ぎがちで落ち着きがなく、高橋正人が理想とする婿にはまだ及ばない印象だった。
それでも、高橋美咲が好きならそれでいい。
これまでの経験から、無理な縁談よりも本当に好きな人を選ぶほうが幸せだと感じていた。
高橋正人は穏やかな笑みを浮かべ、「これからも彼女を大切にしてあげてくれ」と言った。
九条悠真は先ほど挨拶に来た時は少し緊張していたが、高橋正人の言葉を聞くと顔がぱっと明るくなった。
「もちろんです!」と何度も繰り返した。
ふと思い出したように、九条悠真は慌てて付け加えた。「来月15日に東京で婚約披露宴を開きます。ぜひご出席いただければと思いまして。」
桜井奈緒から、彼女が父親と喧嘩して関係が悪いと聞いていたため、両家がまだ顔を合わせていないことも知っていた。今自分が仲介役になれば、きっと和解できるし、自分にも得があると考えたのだ。
九条悠真は誠実そうに、「美咲さんもお父様との関係を良くしたいと言っていました。どうかこの機会をください」と伝えた。
その言葉を聞いて、高橋正人は一瞬動きを止めた。
高橋美咲が彼と婚約するのか?
彼女からは何も聞いていなかった。
だが、それ以上に驚いたのは九条悠真の言葉だった。前回病院で会ったとき、高橋美咲は全く冷たかった。ためらいながら、「本当に彼女がそう言ったのか?」と尋ねた。
「本当です!招待状も送ると言っていました。」
高橋正人の目には思わず涙が滲んだ。
長い年月を経て、ようやく高橋美咲が自分を許してくれたのだ。
高橋美咲は自分の娘だ。たとえ母親との間に愛がなかったとしても、娘への父親としての愛情は本物だった。彼女を恨むなんてできるはずがない。
「分かった。必ず時間を作って行くよ。」
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